公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第324回】理解不能な中国の反ファシズム祭典

島田洋一 / 2015.08.31 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 9月3日、中国政府主催の「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」軍事パレードが北京で行われる。かつて自由と民主化を求める多くの若者の血を吸った天安門広場で、他ならぬ人民解放軍が軍靴を響かせる様子を観閲することは、ユダヤ人強制収容所のあったアウシュビッツでネオナチが行進するのを黙って見過ごすのに似ている。ロシアと韓国を除く主要国が首脳級の派遣を見送ったのは、国際社会が最低限の常識を示したものと言える。

 ●現代中国は典型的ファシズム
 ファシズム、ファシストは政治的レッテル貼りの用語として濫用されてきた。単に暴力的、独裁的を意味する場合も多い。しかし、厳密に定義するなら、有用な分析概念たりうる。
 1920年代、イタリアのムッソリーニが、共産主義でも資本主義でもない「第三の道」として打ち出したファシズムの「第三」たる所以は、国家主義的な独裁を採りつつ、資本主義のエネルギーを抑圧体制活性化のために用いるという点にある。ドイツのヒトラーも、主要産業のカルテル化を進める一方、競争原理は維持しようとした。同じ抑圧システムながら、共産主義との違いである(ちなみに、ファシズムに異常な人種主義が加わったのがナチズム、ナチズムに破滅的な対外膨張主義が加わったのがヒトラリズムと定義できる)。
 この定義に基づくなら、中国は社会主義市場経済を採用した鄧小平時代に、毛沢東的な原始共産主義からファシズムに移行した。中国政府が「反ファシズム」を世界に訴えるのは、政治学的には理解不能である。
 なお、ファシズム研究の泰斗スタンリー・ペイン米ウィスコンシン大名誉教授は、戦前期の日本に部分的にファシズムの特徴を認めつつ、継続的な独裁権力がなく、社会の過激化も限られ、特に「反対派に対する強制収容所システムなど一度も持たなかった」点でドイツとは大きく異なるとしている。

 ●ファシズム対民主主義という構図
 その日本が、ドイツ軍の電撃戦成功に幻惑され、1940年9月、日独伊三国同盟を結んだのは、対外情報戦上、重大な誤りであった。米国を事実上唯一の対象とした同条約の締結は、米政治エリート層の対日観を一段と硬化させ、ファシズム対民主主義という、今に続く単純な第2次大戦理解に手を貸す結果となった。人倫にもとる相手との野合には決して走らない、が汲むべき歴史の教訓だろう。
 米国では、9月後半の習近平中国国家主席の訪米を控え、サイバー攻撃、海洋侵出、人権抑圧を続ける独裁政権トップの国賓待遇をやめよとの声が共和党大統領候補らの間で高まっている。特にルビオ上院議員は人権を強調し、自分の大統領就任式には中国の反体制派を招くと述べている。こうした「レーガン保守」との連携こそ、将来を見据え、日本の政治家が採るべき行動と言えよう。(了)