公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第398回】「もんじゅ」廃炉に見る日本の落日

岡本孝司 / 2016.09.20 (火)


東京大学大学院教授 岡本孝司

 

 政府はマスコミを使って「もんじゅ」を廃炉に導こうとしている。発電を行うもんじゅは、核燃料サイクルの中核をなす高速増殖炉であり、本来、文科省でなく経産省が管轄すべき設備である。常識で考えれば、もんじゅをやめるということは、核燃料サイクルをやめることと同義である。青森県で建設中の使用済み核燃料再処理工場は、厄介なごみの処理施設となり、取り出されるプルトニウムはお荷物となる。経産省は、省益としての核燃料サイクルを維持するため、矛盾した提案を如何にごまかし、もんじゅを切り捨てるかの策を練ってきた。
 
 ●仏との技術協力で代替できない
 経産省が頼るのが、フランスのアストリッド計画である。次世代の高速炉アストリッドの開発は、フランスではほぼ頓挫しているが、経産省はそれを隠して政府に伝えている。政府のもんじゅ廃炉の決断が出れば、あとはアストリッドの開発協力に予算をつけ続け、その技術を日本に導入すればよいと考えている。
 しかし、そもそもアストリッドは、発電ではなく高レベル放射性廃棄物処分のための設備であり、目的やシステムがもんじゅと全く違う。その上、地震に弱いので、地震の多い日本の独自技術を結集したもんじゅの代替にはなり得ない。
 フランスは20年前に高速増殖炉の実証炉スーパーフェニックスを殆ど運転せずに廃炉にした。代わりに、もんじゅクラスの原型炉フェニックスを30年運転して十分なデータを取った。フランスは原爆保有国で、再処理についても十分な知識と技術を持っている。お金をかければ核燃料サイクルをすぐに復活できるだろう。
 これに対して日本は、原爆を持つことは現実的にあり得ないので、もんじゅを廃炉にすれば核燃料サイクルの技術を維持することは難しい。もんじゅをやめる決断は、核燃料サイクルを日本がやめることと同義になる。
 
 ●エネルギー海外依存の悪夢
 国産資源が殆ど無い日本は、エネルギーを海外に依存せざるを得ない。もんじゅは発電をやりながらプルトニウム燃料を生産する鉱山であり、50年後の子供たちへの投資として2兆円の事業費は安いものである。
 日本は将来のエネルギー確保のために核燃料サイクルを進め、もんじゅを推進してきた。一方、安倍政権は、国民に人気のない政策は先送りをする。事業者や青森県をなだめすかしつつ、原子力利用をやめる方向に舵を切っている。事業者を疲弊させ、素人同然の原子力規制委員会を使って日本の原子力技術を劣化させてきた。もんじゅ廃炉はその延長である。ドミノ倒しのように、近い将来、軽水炉も核燃料サイクルも無くなっていくだろう。
 チェルノブイリ原発事故を経験したウクライナは、今でも半分の電気を原子力で賄う原子力大国だが、残りはロシアの天然ガスに依存する。エネルギーを自給できないことで、安全保障上のリスクに直面している。国産エネルギーをほとんど持たない日本は将来、エネルギーを中国やロシアに握られ、同じような目に遭うかもしれない。(了)