公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第397回】「9・11」テロ15周年と日本

島田洋一 / 2016.09.12 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 9月11日は、世界に衝撃を与えた米同時多発テロから15周年に当たった。国際テロ組織アルカイダによるこのテロの犠牲者に日本人24人も含まれているから、日本で政府主催の追悼行事や国会のテロ対策集中審議などがあってしかるべきだった。
 日本人が海外のテロの犠牲になる事件は後を絶たない。2015年に別のテロ組織「イスラム国」(IS)により、日本人人質2人が殺害されたことは記憶に新しい。最近では、今年7月にバングラデシュの首都ダッカの飲食店襲撃テロで日本人7人が死亡した。

 ●対岸の火事?
 国際政治を国家だけが動かしていた時代は過ぎ去り、今やテロ組織が非国家の主要プレーヤーになった。テロが国際社会に恐怖を広げている。
 ところが、日本の一部政治家には、テロを対岸の火事のように見る風潮が存在する。典型的なのが辻元清美衆院議員(民進党)で、米同時テロ直後のテレビ番組で、「今回やられたのはアメリカで、日本はやられてない」と述べ、過剰に反応すべきでないという趣旨の発言をしていた。日本人犠牲者のことは目に入っていない。というより、行動を起こしたくないからあえて目をふさいだのだろうか。あれから15年たって、意見が変わったかどうかをご本人にうかがいたいものだ。
 今の世界では、日本人の命を守るために国境を越えた活動が不可欠となる。しかし、テロ組織に人質を取られた時、普通の国なら(現実に実行可能かどうかは別にして)軍事的な奪還作戦を検討するが、憲法上の制約がある日本にとって、ISに対する実力行使は最初から想定外だった。
 先月、アフガニスタンで米国系大学がテロリストに襲撃され、教授2人(米国人と豪州人)が拉致された。米メディアの9月9日の報道によると、米海軍特殊部隊が、不成功に終わったとはいえ、数次にわたる奪還作戦を実施した。これこそ国民を守る国家の姿であろう。

 ●奪還作戦は夢のまた夢
 それにつけても残念なのは、巨大なテロ組織と言うべき北朝鮮に対して、日本は自国民を多数拉致されながら、踏み込んだ対応を取れていないことだ。国民の命を守るという観点からは、ISによる人質拘束も北朝鮮による拉致も、重大性は同じである。そもそも北朝鮮による拉致は国家テロに相当することを、ブッシュ前政権時代に米国も認定していた。
 日本在住の米国人弁護士ケント・ギルバート氏は、大学の後輩でもある米国人青年の北朝鮮による拉致疑惑について、「米国は特殊部隊を送り込んで奪還作戦が行える。…日本は憲法第9条があるせいで奪還作戦ができない。…『9条教』の信者たちは、拉致の被害者や家族の気持ちを考えたことがないのだと思う」と9月10日付のコラムに記している。
 安倍内閣の憲法解釈でも、こうした作戦実施は憲法違反に当たるとされている。自衛隊の能力を活用する意志が政治家に欠けている。日本が米国人拉致被害者も一緒に北朝鮮から奪還するぐらいでなければ、テロと戦う国際社会の一員とは言えないだろう。(了)