オバマ政権の任期が残り4カ月余りとなり、米国が国際社会でリーダーシップを発揮できない状況があちこちで生まれている。オバマ政権の2期目に顕著になった米国の「内向き」傾向は次期政権に受け継がれる可能性があり、日本の外交・安全保障政策は米国の支援を当然のこととして期待できなくなるかもしれない。
●絶望的なTPP承認
オバマ政権の内政・外交の行き詰まりを象徴するのは、環太平洋経済連携協定(TPP)の米議会における政権任期中の承認がほぼ絶望的になったことだ。米議会で多数を占める共和党のマコネル上院院内総務は8月末、TPP実施法案を年内に上院で採決に付す考えのないことを明らかにした。
TPPは、台頭した中国ではなく日米両国の主導でアジア太平洋地域の将来の経済秩序を構築するという戦略的意味が重要である。しかし、米大統領選挙戦で優位に立つクリントン民主党候補はTPPに不安を感じる国内の労働者に迎合して「大統領になっても(TPPに)反対する」と公言、アジア政策で米国がリーダーシップを取るという気概を欠く。
軍事面では、自衛隊OBの3人が月刊誌「正論」10月号の鼎談で、米軍の「エアシーバトル」構想の変容に警鐘を鳴らしている。この構想は、中国が周辺地域の紛争に米軍を介入させないための「接近阻止・地域拒否」戦略に対抗して打ち出されたものだが、当初の構想では中国本土への攻撃が明記されていたのに、時間を経るに従って後退してきた。米国の内向き傾向が国防の第一線を担う米軍制服組にまで及んだことをこの変容が示すのでなければよいのだが。
●「中国=ロシア=イラン」枢軸
アジア以外に視野を広げると、オバマ外交はにっちもさっちもいかなくなっていることに気付く。
中東は今、ロシアとイランの両専制国家に振り回されている。シリア内戦で崩壊寸前だったアサド政権は、ロシアとイランに支えられて息を吹き返した。米国はアサド政権の追放より、シリア領内の過激組織「イスラム国」との戦いを優先し、ロシアとの戦術的協力を模索する。シーア派が政府を主導するイラクは、同じシーア派のイランの実質的な衛星国と化した。
欧州では、2年前にウクライナ領クリミアを一方的に併合したロシアが、ウクライナとの国境に再び軍隊を集結させ、緊張を高めている。クリミア併合でオバマ政権は欧州連合(EU)と共にロシアに経済制裁を科したものの、ウクライナへの防衛用兵器の供与を拒否し、中途半端な対応に終わった。
ロシアは9月に南シナ海で中国と合同海軍演習を実施する。演習は、南シナ海における中国の「歴史的権利」を否定した7月の国際仲裁裁判所の裁定を無視する中国をロシアが支える意味合いを含む。
内向きの米国を尻目に、中国、ロシア、イランの活発な動きは何を意味するのだろうか。大国のパワーゲームに、日本は割って入って国益を実現することができるか。北方領土問題の打開を目指して日ロ関係の改善を図る安倍晋三首相の外交は、それなりのリスクを伴っている。(了)