公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第395回】北の弾道ミサイルは固体燃料使用か

太田文雄 / 2016.08.29 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 8月24日に北朝鮮が潜水艦から発射した弾道ミサイルの映像を見ると、白い粉末状の噴煙を出していることから、固体燃料を使用しているのではないかと思った。知人の米国人専門家も「固体燃料と思われる」と同意したため、確信するに至った。固体燃料の使用は、北朝鮮の弾道ミサイル開発が新段階に入ったことを物語る。
 
 ●即応性に優れる固体燃料
 現在、北朝鮮が保有する弾道ミサイルは、射程約120キロのトクサを除いて、スカッド、ノドン、ムスダン、テポドンの全てが液体燃料である。
 液体燃料は、酸素のない大気圏外で燃焼させるために酸化剤もミサイル本体に注入することから、数日後には腐食してしまう。このため発射直前に燃料を注入しなければならず、これに時間を要する。この作業の間に偵察衛星等で発射の兆候が事前に察知できる。
 しかし、固体燃料であればミサイルを格納庫から出して即座に発射でき、また保管や取り扱いが容易なことから、軍事的に優れている。
 今回、潜水艦から発射された弾道ミサイルは、射程1000キロ以上と推定されるため、北朝鮮は今後、地上発射型の長射程弾道ミサイルの即応性も向上していくと考えなければならない。
 
 ●進むイランとの軍事協力
 北朝鮮のノドンは、イランに輸出されるとシャハブ3、パキスタンに輸出されるとガウリと名称を変えるが、同じミサイルである。イランが2008年11月12日に発射したシャハブ3は、固体燃料特有の白い粉末状の噴煙を出していた。
 北朝鮮とイランの軍事技術交流は一連の報道で明らかになっている。2011年11月にイランで起きたミサイル基地の大爆発で、北朝鮮技術者5名が死亡した(産経新聞2011年12月30日)。2012年4月、北朝鮮のミサイル発射を視察するため、イラン代表団12名がひそかに訪朝した(同2012年4月13日)。2012年10月下旬から、イランは国防軍需省の技術者で作る代表団を北朝鮮に常駐させ始めた(共同通信2012月12月7日)。両国のこうした交流からみて、北朝鮮がイランの技術を取り入れ、長射程弾道ミサイルの固体燃料化に成功するのは時間の問題と思っていた。
 米国の対北朝鮮、対イラン政策は物足りない。ブッシュ前政権は初め、サダム・フセイン政権のイラクと並べて北朝鮮とイランを「悪の枢軸」と非難したが、政権末期には北朝鮮をテロ支援国家の指定から解除してしまった。続くオバマ政権はイランとの核合意で妥協し、イランに融和姿勢を取った。
 固体燃料の使用で北朝鮮の弾道ミサイル発射の兆候が捕捉しにくくなることに加え、北朝鮮が核弾頭を小型化してミサイルに搭載できるようになれば、我が国の安全に極めて重大な脅威を及ぼす。核兵器を「持たず」「造らず」「持ち込ませず」という日本の非核三原則は、佐藤正久参院議員(自民)が言うように、実際には核兵器について「議論をせず」「考えもせず」を加えた非核五原則になっている。現在日本が核兵器保有の道を歩むことは現実的に見てあり得ないが、議論も考えもしない現状で、いつまで良いのだろうか。(了)