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木村汎

【第399回】安倍政権の手法では「2島返還」で終わる

木村汎 / 2016.09.26 (月)


北海道大学名誉教授 木村汎

 

 来る12月15日は、日ロ関係の分水嶺となろう。安倍晋三首相は、地元山口県を訪問するロシアのプーチン大統領との間で、北方4島の返還を事実上断念するに等しい共同声明を発表するだろうからである。
 もとより、同声明には、はぼまいしこたんの2島の対日引き渡し後も、日ロ両国がくなしりえとろふに関する交渉を継続するという文言が入れられるだろう。だが、歯舞・色丹の引き渡しは、平和条約の締結後となる。これがロシア側の主張であり、安倍政権も、そのことを百も承知のうえで声明に同意するに違いない。にもかかわらず、日本国民に向かっては、残りの2島を決して放棄しないとの説明を試みるだろう。べんである。
 
 ●なぜ急ぐ対ロ妥協
 喉から手が出るほど欲しかった日本との平和条約――。目的を達したプーチン政権が残りの2島についての交渉など真剣に行うはずはない。さらに悪いことに、ロシアは交渉継続を装って、国後・択捉の共同経済開発ばかりでなく、ロシア極東に対する日本の経済協力を半永久的に取り付けようとするであろう。
 歯舞・色丹2島の引き渡しだけで良いのならば、1956年の鳩山一郎首相訪ソ時に可能だった。鳩山首相がそれに同意し得なかった理由としては、確かにダレス米国務長官による横やりも存在しただろうが、2島だけでは4島全体の7%の面積に過ぎず、それによって93%を失うのを潔しとしなかったからだ。当時の日本は、シベリア抑留、国連未加盟等々、喫緊の課題に直面していたにもかかわらず、2島ぽっきりの返還には応じなかった。
 その後60年間に日本の国力は飛躍的に増大し、その経済、科学技術力はロシアにとりすいぜんの的のはずである。ロシアが原油安、通貨ルーブルの下落、先進7カ国(G7)による制裁という「三重苦」にあるのに、折悪しく経済減速中の中国から支援が期待できないプーチン政権にとっては、とりわけそうであろう。このように日本有利の時が近づきつつある―だが、まだ到来していない―のに、安倍政権はなぜ性急にロシアに自ら進んで妥協しようとするのか。

 ●土地奪われて国滅ぶ
 一説によると対中戦略の一環であるというが、間違っている。まず、日本が中国の膨張に対抗するためには、何よりも米国との緊密な連携が肝要なはずだ。次に、ロシアも中国も、日本外交が分断に成功し得るような生易しい相手ではない。さらに、日本が2島でロシアに妥協すると見て取って、中国や韓国は日本人の領土観をくみしやすいと解釈するに違いない。
 最後に、ドイツ法哲学者イエーリングが『権利のための闘争』で述べた言葉を引用する。
「隣邦から1平方マイルの土地を奪取されて平然たる国民は、やがて残りの土地まで奪われ、遂には自分の土地と称するもの一切を失い、国家として存立することを止めるに至るであろう。そして、そのような国民には、こうした運命がいちばんふさわしいのである」(了)