9月9日、東京・千代田区の在日本韓国YMCAで、旧日本軍の慰安婦関連資料の国連教育科学文化機関(ユネスコ)「世界の記憶」(記憶遺産)登録を目指す集会が催された。集会には、日本などの働き掛けでユネスコが進めている登録ガイドライン見直しに携わっているオーストラリア人のレイ・エドモンドソン氏が基調講演者として参加し、登録審査の公平性に疑問を抱かせた。
●行司が相撲を取る
集会は、今年5月に慰安婦資料の登録を共同申請した日中韓などの市民団体が開いた。パネルディスカッションでは、共同申請の中心となった日本の「女たちの戦争と平和資料館」や韓国の挺身隊問題対策協議会(挺対協)の代表のほか、中国人慰安婦が20万人もいたという荒唐無稽な説を流布している上海師範大学の蘇智良教授が登壇した。
エドモンドソン氏はユネスコの記憶遺産事業に1996年から関わり、現行の登録ガイドラインを執筆。登録の是非を決定する国際諮問委員会や、同委員会に是非を勧告する登録小委員会の委員を歴任し、現在は登録手続きの透明性向上を図る制度改革のための「レビューグループ」のメンバーとなっている。
そのエドモンドソン氏が登録申請側の集会に参加したことは、制度改革の行司が力士と一緒に相撲を取るようなものである。同氏は基調講演後の質疑応答で、慰安婦資料の登録の是非は現行のガイドラインに沿って判断され、見直し後の基準は適用されないと明言した(9月10日付朝日新聞)。これは明らかに公平を欠く不適切な言動であり、日本政府として厳しく抗議する必要がある。
●申請者との癒着
エドモンドソン氏が登録申請側の会合に参加したのは、今回が初めてではない。共同申請団体で構成する「ユネスコ記憶遺産共同登録国際委員会」の第3回会議(3月15~16日、ソウル)に、今回のパネリストらと同席している写真が公開されている。制度改革や、国際諮問委員会、登録小委員会に絶大な影響力を持つキーパーソンが、登録申請者と癒着関係にあることを天下にさらけ出して恥じるところがないのだ。
日本政府もなめられたものである。東京の集会で蘇智良教授は、昨年10月の国際諮問委員会にオブザーバー参加した際、中国が単独で申請した慰安婦資料の登録が同委員会で見送られたことについて、委員会の関係者から「中国提供の慰安婦資料に問題はないが、他の被害国も登録を望むと思うので、一緒に申請したらどうか」という趣旨のことを言われたと報告した。
このようなユネスコ側と申請者の癒着構造にメスを入れない限り、慰安婦資料の登録は「出来レース」となり、昨年10月の「南京虐殺」資料登録の轍を踏むことは明らかである。日本政府はエドモンドソン氏の不適切な言動に直ちに抗議すべきだ。慰安婦資料の登録の是非を勧告する登録小委員会は来年1月に開かれる予定だが、小委員会開催を制度改革決定後に延期し、新基準で審査するよう申し入れるべきだ。残された期間は3カ月しかない。対応を急ぐ必要がある。(了)