公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

髙池勝彦

【第224回】NHKの偏向番組に警鐘

髙池勝彦 / 2013.12.02 (月)


国基研副理事長・弁護士 髙池勝彦

 

 11月28日、NHK番組の偏向を訴へた集団訴訟の東京高裁判決があり、NHK敗訴の逆転判決が出た。これは、平成21年4月5日放映されたシリーズもの「JAPANデビュー」の第1回「アジアの“一等国”」の余りに偏った内容に憤激した主として日本人と台湾人の合計1万335人がNHKを相手に起こした民事訴訟の高裁判決である。原告が1万人を超えたのは我が国の民事訴訟事件で初めてだった。
 一審の東京地裁判決は平成24年12月14日に、原告らのすべての請求を退けた。それに対して、東京高裁は原告の1人のパイワン族の女性を勝たせる逆転判決を出したものである。

 ●「人間動物園」は名誉毀損
 番組は日本の台湾統治を台湾人に対する弾圧と差別の面からのみ描いたとして、番組を見た者、取材に協力した者、取材に協力しただけではなく番組に登場した者など、多くの者が、内容が一方的であると抗議したのである。
 その中に台湾の少数民族であるパイワン族の人々がゐる。それは、明治43年(1910年)ロンドンで行はれた日英博覧会に、相撲や歌舞伎などとともにパイワン族の人々24名が参加し、民族衣装で出演したからである。NHKは、出演したパイワン族の1人の現在84歳の娘を番組に登場させ、民族衣装の父親の写真を見せ、彼女が日本語で「かなしい」と言つた際、字幕に「人間動物園」とサブタイトルをつけて、日本人が台湾人を動物扱ひして差別したとの脈絡で登場させたのである。
 判決は、他の原告については請求を認めなかつたものの、この女性については名誉毀損に当たると判断した。

 ●番組審査の第三者機関が必要
 判決は、担当ディレクターが先入観をもつて一方的に取材し、自分の意図に合はせて番組を作成したと厳しく批判した。報道に携はる者としてのマナーに欠けるともいつてゐる。
 問題は、我が国の台湾統治を否定的にみる視点から番組を作らうとしたことと、偏向してゐるとの批判に対して偏向してゐないとの主張を放映後も続けたNHKの体質である。この判決を見ると、NHKの経営委員会や番組審議会は、今のところ機能してゐないといはざるを得ない。番組の公平さや真実性などを審査する別の第三者機関の設置が必要である。(了)