公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第１２５８回】日本を「真珠湾攻撃」から守れ

岩田清文 ／ 2025.06.09 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長　岩田清文

 

　ウクライナは6月1日、小型の無人機（ドローン）による歴史的な奇襲作戦を実施し、多数のロシア空軍機に損害を与えた。ウクライナのゼレンスキー大統領は、この作戦でロシアの戦略航空機の約34%、41機を破壊したと述べており、今後のロシア軍の作戦のみならず、停戦交渉にも大きな影響を与えることになるだろう。

　●ロシアに大打撃を与えたドローン
　「クモの巣」と命名されたこの作戦では、ウクライナ保安庁（SBU）が117機のドローンにより、ロシア全域の4つの空軍基地に対してほぼ同時に攻撃を実施した。ウクライナの攻撃により破壊されたのは、ロシアがウクライナの戦闘機やミサイルを探知するために使用するA50早期警戒管制機、並びにウクライナに対して巡航ミサイルを発射するためのTu95およびTu22M3戦略爆撃機などである。

　米紙ニューヨーク・タイムズは3日、ウクライナの特殊部隊が6機のTu95爆撃機、4機のTu22M爆撃機、1機のA50早期警戒管制機を破壊または損傷させた可能性が高いと特定した上で、最大20機のロシア戦略航空機を破壊したか、深刻な損傷を与えた可能性があると報じた。これら爆撃機は冷戦時代から使用されていた古い機種であり、ロシアで現在生産されていないことからも、ロシア軍の攻撃力が今後長期間にわたり著しく低下することになるだろう。
　本作戦は時期的に、ウクライナ、ロシア両国がトルコのイスタンブールにおいて停戦交渉を予定していた前日に行われたものである。停戦交渉におけるロシアによるウクライナ降伏要求には屈しないという、ウクライナの政治意志を示したと言えよう。
　軍事的には、ウクライナに対する長距離ミサイル攻撃を低減させるため、ロシアの戦略航空機の破壊を目的としている。評価すべきは、約1年6か月の作戦準備の間、ロシア側に漏れずに、近距離運用しかできない小型のドローンをはるか4000キロ以上離れた空軍基地を含むロシア各地までトレーラー等により運び込み、ほぼ同時攻撃を行ったことである。現代版「トロイの木馬」あるいは「真珠湾攻撃」と言われる所以であろう。

　●ウクライナの知略に学べ
　この作戦は様々な観点において歴史に残る作戦となるであろうし、また今後の戦争の在り方を変えていく転換点にもなり得る。低コストのドローンにより、世界のどの地域でも攻撃できる可能性をウクライナが示したことは、将来的な国土防衛の難しさを突き付けている。
　米国では既にニューズウィーク誌（4日電子版）が「米国も中国の『真珠湾攻撃』を受けかねない』と警告を発しているが、それは日本にも当てはまる。日本はウクライナの知略に学び、速やかに防衛の在り方を検討すべきだ。（了）