公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

細川昌彦

【第1259回】日米交渉の情報リークが国益を損ねる

細川昌彦 / 2025.06.09 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 日米関税交渉で赤沢亮正経済財政・再生相が5回目の閣僚協議を行った。訪米は3週連続という異例のハイペースだ。異例さは頻度だけではない。米側は中国など他国との交渉も抱え、事務レベルも手薄でパンク状態だ。協議に臨む米国の閣僚3人もそれぞれ交渉スタンスに差がある。交渉の主導役は穏健派のベッセント財務長官とされるが、日本が重視する自動車の追加関税は商務省の所管で、強硬派のラトニック商務長官がカギを握る。そして両長官はお互いにライバルだ。しかも最終決定権を持つトランプ氏の意向もつかみ難い。
 そんな日本の交渉チームの苦労をよそに、無神経な情報リークが国益を害する事態が目に余る。

 ●中国を刺激する無神経さ
 まず5月30日、第4回の日米関税交渉直前のリークがそうだ。
 日本は米国に対し、レアアース(希土類)の協力を提案すると報じられた。対中国を念頭に経済安全保障面での連携を深める狙いだ。世界のレアアース生産の大半を占める中国は4月、米国の関税賦課への対抗措置として7種類のレアアースの輸出を規制した。レアアースはハイテク製品の生産に欠かせず、米側には危機感が高まっている。日本は加工・製錬さらにはリサイクルなどの技術で支援することを検討している。また第三国での製錬に向けての協力も検討している、と報道された。
 さらに6月5日、第5回の日米関税交渉直前にまた強烈なリーク報道があった。
 見出しも「中国対策パッケージを提示へ」という刺激的なものだ。日本は対中国を意識したレアアースや重要鉱物での協力に加えて、米国産の液化天然ガス(LNG)の輸入拡大や米企業製の半導体の購入などを含めて中国対策での協力パッケージを提示すると報道された。
 私もかつて経産官僚として対米交渉を担当していた時、メディアのリーク報道に悩まされた。今回も造船協力、LNG協力などさまざまリークが飛び交う。しかしこの二つのレアアース協力に関するリーク報道は対中国を前面に出して、中国を刺激することが明らかだ。本質的に深刻度の次元が違う。

 ●レアアース協力は水面下で静かに
 中国によるレアアースの輸出規制は産業界への影響も顕在化しつつあって、米中対立の主戦場にもなっている。それだけに対米協力カードとして重要であることは論を待たない。日本自身も規制の対象になっており、産業界への影響は深刻だ。そして中国によって恣意的に運用されるだけに、外交上の重要課題だ。
 もちろん日米協力は極めて重要だが、水面下で静かに進めるべきだ。対中国を謳って勇ましく打ち出すのは逆効果で、国益を損なうことは明らかだ。報道したメディアを批判しているわけではない。リークの出所や思惑は不明だが、こうした情報リークは交渉現場の努力も水泡に帰しかねないのだ。今後の交渉進展のためにも早急に政権内の手綱を締め直すべきだろう。(了)