防衛相経験者4人が入っているとは思えないお粗末さだ。6月13日に行われた国家安全保障会議(NSC)のことだ。イスラエルによるイランの核関連施設などに対する攻撃について、石破茂首相は約35分間行われたNSCの場で、①情報収集②万全な在留邦人保護③事態の沈静化とイラン核問題の平和的解決に向けた関係各国との連携―の3点を関係閣僚に指示した。
わざわざ会議を開いて首相に指示されるまでもなく実行すべきことばかりで、国民に向けたメッセージ性も欠如している。イランによるホルムズ海峡の封鎖が実施された場合に備えた対応を指示するなど、影響が中東地域に限られる事態ではないとの認識を国民に伝える必要があったのではないか。
●西太平洋に「力の空白」
会議には石破首相のほか林芳正官房長官、岩屋毅外相、中谷元・防衛相が参加した。いずれも防衛相を経験し、自民党内では安全保障問題に精通しているといわれる面々だ。イスラエルとイランの攻撃の応酬が激化すれば、ホルムズ海峡の封鎖のほか、米軍がアジア太平洋地域から兵力を中東に振り向ける可能性もあるなど、連鎖して様々な事態が起きるかもしれないことは熟知しているはずだろう。
折しも、中国海軍は6月上旬、初めて西太平洋で2隻の空母「遼寧」と「山東」が連動した訓練を実施した。監視のため太平洋上空を飛行していた海上自衛隊のP3C哨戒機を、中国軍のJ15戦闘機が追尾し、約45メートルの距離に接近する危険な飛行をした。林官房長官は「このような中国軍機による特異な接近は、偶発的な衝突を誘発する可能性がある」と深刻な懸念を表明し、緊張が高まっている。
日本政府内には、トランプ米政権の誕生により西太平洋に「力の空白」が生じており、中国軍はそこを埋めようとしているとの見方もある。NSCでは中国軍に緊張をいっそう高める行動をとらせないためにも、自衛隊による警戒態勢を強化する指示があってもいいはずだ。何事も中国との間では穏便に済まそうとする態度に終始していいのか。
●空疎なイスラエル非難
石破首相はNSC終了後、イスラエルによる攻撃について「平和的解決に向けた外交努力が継続している中、軍事的手段が用いられたことは到底許容できない。極めて遺憾で強く非難する」と述べた。「イランに核兵器を絶対に保有させない」との強固な意志を持つイスラエルにしてみれば、北朝鮮の核保有を防ぐことができなかった日本にとやかく言われたくないだろう。
石破首相はトランプ政権による関税政策を「国難」と位置付けている。しかし、「本当の国難」とは日本の輸入原油の8割が通過するホルムズ海峡の封鎖であり、中国による軍事行動である。今回のイスラエルによる攻撃を中東地域に限定した事態とみるのは間違っている。(了)