国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一
菅政権は昨年12月17日に決定した新防衛大綱に、「アフリカ、中東から東アジアに至る海上交通の安全確保等に共通の利害を有するインド」との「協力を強化する」と明記した。中国の危険な台頭をまがりなりにも意識した結果であろう。
ところが「有言実行」どころか、日本側から人為的に障害を作り出し、協力に積極的なインド側を失望させているのが現状だ。昨年末、国基研代表団がインドを訪れた際にも、そうした苛立ちの声を多く聞いた。
なぜインドを除外するのか
戦闘機等の国際共同開発への参加や友好国への軍民共用テクノロジーの供与を可能にするには、武器輸出三原則(実態は対米などを除き包括的禁止に近い)を緩和せねばならない。
政府も昨年来、一定の問題意識の下、「武器の輸出管理が適正な国」を念頭に見直しを進めていた。しかし、緩和対象に挙げられていたのは北大西洋条約機構(NATO)諸国、韓国、オーストラリアのみで、インドは外されている。理由は、インドが核拡散防止条約(NPT)に加入していないためだという。呆れるほど硬直した、戦略性のかけらもない対応だ(なお、その不十分な緩和策さえ、菅政権は社民党への愚かな配慮から先送りした)。
●NPT加入を防衛協力の条件にするな
菅首相は、「(国際社会に)不確実な要素が存在する中では、核抑止力は引き続き必要」と述べるなど、同盟国米国の核の傘に頼る姿勢を見せている。その一方で、核保有国との同盟関係のないまま中国とパキスタン(中国が核開発を支援)の脅威に立ち向かうインドに対し、NPT加入すなわち自前の核抑止力の放棄を迫るなら、矛盾と言わざるを得ないだろう。
米英ソ主導で1968年に成文化されたNPTは、「1967年1月1日以前」に核実験に成功した国を「核兵器国」と認め、それ以外の国は「非核兵器国」としてのみ受け入れる仕組みになっている。従って1992年、従来NPTを大国の陰謀と批判していた中国(1964年に核実験成功)が「核兵器国」の資格で加入した際、仮にインド(1974年に核実験成功)も同時加入しようとしたなら、核を一方的に放棄し「非核兵器国」になる必要があった。インドの政治家にとって、これが取り得ない選択だったことは明らかだ。
中国の覇権的膨張を前に、基本的価値観を同じくするインドとの関係強化を唱えながら、そのNPT非加入を事ごとに「障害」となす日本政府の対応は、明らかな自家撞着であり、自殺的偽善とすら言えよう。(了)
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第73回:インドを武器輸出緩和の対象にせよ(島田洋一)