公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田村秀男

【第1278回】ウクライナ和平の秘策は対中高関税だ

田村秀男 / 2025.08.25 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 田村秀男

 

 トランプ米大統領によるウクライナ和平工作は難航を極めているが、前進させるための秘策がある。高関税を手段に、中国の対ロシア支援をやめさせることだ。

 ●中国がロシアの戦争を下支え
 ロシアが西側の経済制裁にもかかわらずウクライナでの消耗戦を続けられるのは、中国が貿易と金融の両面でロシアへの大規模な支援を続けているからだ。
 中国のロシア原油輸入は2024年、616億ドルに上った。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)推計による同年のロシア軍事費の前年比増加額397億ドルを大幅に上回る。しかも、中国はロシア原油を国際相場より約20%も割高で購入、その差額84億ドルは丸々ウクライナ戦費に回せる。
 そればかりではない。中国はロシアに対し消費財から攻撃用ドローン、軍民両用の半導体、建設機械などを輸出している。さらに、国際金融市場の香港を通して、ロシアの国際金融取引や外貨獲得を支援している。

 ●腰砕けのトランプ氏
 トランプ氏は中国の対ロシア支援を表向きにはほとんどとがめてこなかった。対照的な扱いを受けているのがインドで、トランプ氏は7月末、インドのロシア原油とロシア製武器購入を非難し、25%の相互関税をかけた。インドは中国と並ぶ規模でロシア原油を買っているが、価格は国際相場よりも安い。
 インドへの高関税は、トランプ政権による習近平政権の対ロ支援への警告とする見方も一部にあるが、裏付ける情報はない。トランプ氏は習氏との会談を強く求めており、実現した場合、ロシア支援打ち切りを求める可能性がないわけではない。しかし、トランプ氏は中国に対してはTACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも最後にはしり込みする)との評判が定着している。
 実際、トランプ政権は4月10日に145%の対中関税を発動しながら、ひと月後、暫定的に30%に引き下げた。トランプ氏は8月12日までに米中交渉がまとまらなければ80〜85%へ引き上げると息巻いたが、結局、11月9日まで交渉期限を先送りした。

 ●制裁関税は中露に効く
 トランプ関税は日本など西側経済を痛めつけるが、世界秩序を壊すロシアを素通りし、中国には腰砕け気味である。だが、高関税という武器は中露に対してこそ威力を十分に発揮できるはずだ。
 ロシア経済は2桁台のインフレと20%もの高金利で疲弊している。中国は不動産バブル崩壊不況の底が見えず、デフレ圧力が高まる一方だ。日本は欧州と足並みをそろえ、トランプ政権に対し、対中高関税を活用し中国の対ロ支援をやめさせるよう迫るべきではないか。(了)