米国務省は国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長らに対し、米国内資産の凍結やクレジットカードの利用停止などの制裁措置を発動した。ICCは、国際法違反の犯罪者を訴追・処罰するため2002年に設立された常設国際刑事法廷である。わが国は設立当初から加盟し、裁判官を送り続け、最大の分担金拠出国として支えてきた。国際社会における「法の支配」を重視する日本としては、米国との関係を上手に管理しながら、ICCを支持する基本線を貫くことが重要だ。
●米が目の敵にした国際刑事法廷
ICCの任務は、ジェノサイド(集団殺害)、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪という4つの重大犯罪を追及することである。ただしICCが犯罪を追及できるのは、犯罪が起きた国や容疑者の母国に捜査・訴追を行う意思と能力がない場合に限られる。
加えて、捜査を開始するには、①締約国による付託②国連安保理による付託③ICC検察官の職権による捜査開始―のどれかが必要となる。
米国務省によると、赤根所長らに制裁を科した理由は、ICCが米国を含む非締約国の国民の犯罪追及を試みたためという。ICCは、犯罪が起きた国が締約国であれば、非締約国の容疑者にも捜査権が及ぶ仕組みである。
具体的には、2020年にアフガニスタン(締約国)で捜査が開始された際、米国(非締約国)の軍人や中央情報局(CIA)職員による戦争犯罪も、ICC検察官の職権で捜査対象となった。これに対し米国は、国家主権への侵害で、職権濫用だとして強く反発した。
仮に犯罪事実が確認されて容疑者に逮捕状が出ても、ICC自身に逮捕する能力はなく、米国や米国民に実害は及ばない。それでも米国がICCに厳しく対応するのは、自国民を絶対に守るという固い意志による。
例えばブッシュ(子)政権は「米国軍人保護法」を制定し、米国人をICCに引き渡さないことを約束する二国間協定の締結を各国に求めた。オバマ政権もICCの捜査を決して受け入れなかった。このように、国の命令で任務を遂行した軍人や工作員を外国や国際機関に引き渡さないことは、党派を超えた米国の方針である。
●中国にも目を向けよ
ICCには、世界にもっと存在する国際法違反の犯罪の追及に目を向けてほしい。ICCは2023年、ウクライナからの子供連れ去りという戦争犯罪を理由に、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した。しかし、第1次トランプ政権がジェノサイドと認定した中国によるウイグル人など少数民族の弾圧を追及することには及び腰である。
日本は、戦後の極東国際軍事裁判(東京裁判)で、勝者の論理により戦争犯罪を押し付けられた苦い経験がある。より客観的な目で戦争犯罪を裁くICCなら、支えるに値するだろう。唯一の同盟国である米国がICC解体の主張まで突き進んでいることで、日本は難しい外交のかじ取りを迫られるが、「法の支配」を支持する基本姿勢でぶれないことを期待する。(了)




