●台湾喪失は日本の土台を揺るがす
台湾が中国の支配下に入れば、日本の安全保障環境は取り返しのつかない形で悪化する。台湾は、日本からフィリピンへ連なる第1列島線のほぼ中央に位置し、中国にとっては西太平洋へ進出するための扉であり、日本にとってはそれを防ぐ防波堤である。この防波堤が崩れれば、中国は日本の南西諸島を広く射程に収めるミサイル部隊を台湾に配備するとともに、台湾を基地とする海空軍戦力を無制約に太平洋に進出させることができる。先島諸島や沖縄は直接脅かされる最前線基地と化し、わが国は防衛体制の根本的な強化を余儀なくされよう。
脅威にさらされるのは軍事面だけではない。台湾は世界の最先端半導体生産の9割超を占める世界供給網の中心であり、その喪失は自動車をはじめとする日本の基幹産業を直撃する。さらに、日本への原油や物流の大動脈は台湾周辺海域の安定に支えられている。国際海底ケーブルの結節点でもある台湾は、日本のエネルギー安全保障、産業基盤、デジタル経済を支える重要な存在だ。台湾の喪失は、日本の存立と繁栄の前提条件を揺るがすのである。
加えて、台湾は軍事や経済だけでは測れない価値を持つ。英調査分析機関による「民主主義指数」でアジアの首位、世界の12位に立つ台湾は、中華圏においても自由、選挙、政権交代といった民主主義が成熟し得ることを示している。これは、「中華民族に民主主義はなじまない」とする中国共産党の主張を覆す生きた反証であり、台湾の存在自体が権威主義に対する防波堤となっている。
●関与意思の明示こそ最大の抑止だ
ここで重要なのは、日本は台湾有事に「巻き込まれるかどうか」を選べる立場ではない、という現実である。関与をためらい、その意思を曖昧にすれば、相手に誤解を生じさせ、より大きな危機を招く。1950年、米国が韓国を防衛線の外側に見える形で示した「アチソン・ライン」の曖昧さが、朝鮮戦争を誘発したとされる教訓は重い。近年の米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の分析でも、日本が米軍の基地使用を拒み、不関与を選んだ場合、台湾防衛は失敗するという結果が出た。
だからこそ、日本が明確な関与の意思を示すことには意味がある。台湾有事が日本の「存立危機事態」になり得ると発言した高市早苗首相に、中国が強く反発している事実こそ、日本の姿勢が中国の侵略コストを引き上げ、抑止として機能していることの表れと見るべきだ。台湾の現状維持を支えることは、他者支援ではなく、日本自身の存立と繁栄を守るための、最も現実的な自己防衛なのである。(了)




