文在寅韓国大統領がワシントンを訪問し、トランプ米大統領と2日間にわたり首脳会談を行った。私は6月中旬、米軍関係者から今回の首脳会談についてこう聞いた。
「トランプ大統領が一番先に尋ねるのは、『北朝鮮の核ミサイル開発をやめさせる船が出航しようとしている。あなたはそれに乗るか』だ。当然、文大統領はイエスと言うだろう。そうしたらトランプ大統領は『7月上旬のG20(20カ国・地域)首脳会議で、北朝鮮の核ミサイル開発は東アジアの安全を危険にさらすだけでなく国際的な脅威だという主張を米韓で協力して展開しよう』と迫るだろう」
●THAADへの言及なし
首脳会談での実際のやりとりは分からないが、共同声明では「北朝鮮の核・弾道ミサイル開発計画によって国際の平和と安全に対する脅威が加速化している」と明記された。すでに5月の主要7カ国(G7)首脳会議では、安倍晋三首相の主導で「国際社会の平和を脅かす新たな段階の脅威」と認定されていた。今回の米韓首脳会談で日米韓3国の対北政策での協力と連携の必要性が強調され、G20で3国首脳会談を開催することで合意したのも、北朝鮮の脅威を世界規模の脅威として強調する布石だろう。
公開された会談内容や共同声明では、米韓同盟強化、米国が提供する「核の傘」の再確認、韓国主導の平和統一へ向けた環境整備への支持など、トランプ大統領は表向き文大統領を立てた部分が多い。しかし特記されるべきは、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国への配備問題について一切言及がなかったことと、米軍が持つ戦時作戦統制権の韓国への早期返還が明記されたことだ。
●北に安心感与える作戦統帥権返還
文大統領が就任直後からさまざまな理由でTHAAD配備の遅延工作を行ってきたことについて、トランプ大統領は激怒していると伝えられていた。作戦統帥権返還は盧武鉉政権が推進し、それに続く李明博、朴槿恵両政権が北朝鮮情勢などを理由に延期してきたものだ。盧氏は大統領退任後、「米軍が作戦統帥権を持っていると北朝鮮が脅威と感じるから、返還を求めた」と吐露している。北朝鮮が核ミサイルで国際社会を脅かしている時、北朝鮮の感じる米国の脅威を減らすための政策を盧氏が開始し、文氏がそれを引き継いだことになる。文政権は北朝鮮に軍事的脅威を覚えさせることではなく、安心感を与えることを目標としているのか。
米国とすれば、在韓米軍を守るためのTHAAD配備に非協力的な文政権の下で、米軍を韓国に駐留させる必要を感じなくなってもおかしくない。共同声明では通常兵器と核兵器による韓国防衛を再確認したが、それは在韓米軍の駐留を継続しなくても可能な内容だ。むしろ、トランプ政権が対北爆撃などを選択する場合、北朝鮮の長距離砲などの射程内に米軍が駐留していることは作戦上の障害になりかねない。
文政権が北朝鮮にどれくらい強い圧力をかけるのかを確認した上で、韓国の扱いを決めるというのが、トランプ政権の本音ではないか。(了)