公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

大岩雄次郎

【第519回】G7サミットの意義を思い起こせ

大岩雄次郎 / 2018.06.11 (月)


国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎

 

 メルケル独首相は、イタリア・タオルミーナで昨年開催された前回の主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)における「トランプ米大統領対6カ国首脳」の議論について、「極めて不満とまでは言わないが、極めて困難だった」と評した。今回のシャルルボワ(カナダ)サミットでこの対立の構図はさらに鮮明となり、貿易問題の溝は埋まらず、いったん出された首脳宣言をトランプ大統領が承認しないという前代未聞の事態を招いた。G7への対抗軸として中露が主導する上海協力機構(SCO)に勢いを与えかねない失態をG7が演じた格好である。

 ●「終わりの始まり」か
 米国第一主義を掲げ、内向き志向を強めるトランプ政権により、1975年から毎年欠かさずに開かれてきたサミットでの協調は岐路に立っている。G7サミットの「終わりの始まり」という悲観的見方さえ存在する。
 G7メンバーを名目GDP(国内総生産)で見た場合、世界全体に占める割合はピークの1980年代後半に70%近くあったが、現在は50%を切っている。一方、G7と並行して首脳会議を先週開催したSCOの参加国は拡大の一途をたどり、中国の広域経済圏構想「一帯一路」の要衝に位置するイランの正式加盟も取り沙汰されている。
 トランプ政権による多国間合意の軽視、英国の欧州連合(EU)離脱による独仏などとの摩擦で生じた国際協調の乱れは、G7メンバーの経済的影響力を一層低下させ、地政学的リスクを高め、世界経済・金融市場の不安定化を招きかねない「重大な脅威」と認識する必要がある。

 ●重要な主要国の政策協調
 主要国サミットは、ニクソン・ショック(1971年)や第1次石油危機(1973年)などを契機に、世界の経済問題に対する政策協調について、平和的な問題解決を共通認識とする先進国の首脳レベルで総合的に議論する場が必要であるとの認識から生まれた。
 その後、冷戦期及び冷戦崩壊後の安全保障や政治外交問題、また近年では開発、環境、気候変動、エネルギーといった地球規模の問題などで主要国の政策協調を図る上で、G7サミットの重要性はますます高まっている。
 さらに、南シナ海や東シナ海などで海洋進出の動きを活発化させている中国や、対外強硬路線をとるロシアによる既存の国際秩序への挑戦に対して、自由、民主主義、人権などの基本的価値を共有するG7首脳が自由闊達な意見交換を通じてコンセンサスを形成し、物事を決定するG7サミットの存在意義は増している。
 半面、G7各国の政治・経済事情の違いは一段と大きくなってきており、当然ながら政策の優先順位は違う。しかし、各国が自国優先の傾向を強めていけば、G7の政策協調はますます後退し、世界経済の縮小を引き起こし、政治的な不安定を引き起こしかねない。トランプ大統領に振り回されることなく、6カ国の結束を高め、G7サミットを再構築することは喫緊の課題であり、わが国が果たすべき責務は大きい。(了)