公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第615回】米韓同盟に大きな亀裂

西岡力 / 2019.08.26 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 8月22日、韓国の文在寅政権は、日本との軍事情報交換のための日韓軍事情報保護協定(GSOMIA) 終了を決めた。日本にとっては2016年の協定調印以前の状況に戻るだけで、米軍との緊密な情報交換があるのでダメージはほとんどない。一方、韓国にとっては日本の衛星情報やレーダー情報などを瞬時に得ることができなくなるというマイナスがある。それだけでなく、米国が繰り返し延長を説得したのにそれを拒否したという点で米韓同盟に大きな亀裂を生じさせた。

 ●米の説得を無視した文大統領
 米国は国防長官を訪韓させ韓国政府中枢に働きかけ、駐韓大使が財閥トップを招き延長実現への協力を求めるなど説得したが、文在寅大統領は同盟国の言うことを聞かなかった。協定終了の理由に日本の貿易規制を挙げたが、それを想定して米大使が日本の措置は貿易規制ではないことを現場でよく知っているはずの財閥トップに会って文政権への働きかけを頼んだのだが、その働きかけさえ無視された。
 北朝鮮は韓国を赤化統一するために、日韓、米韓関係を弱体化することを目標としてきた。かつて北朝鮮の金日成主席は、韓国を取るには韓国という冠を支えている2本のあごひもを切ればよい、そのあごひもが日韓、米韓の関係だと口癖のように話していた、と亡命した黄長燁元労働党書記が伝えている。まさに北朝鮮の思うつぼの展開となっている。
 500人の予備役将軍が加入する「大韓民国守護予備役将軍団」は24日発表した声明で、「北朝鮮の核の脅威に韓国と日本がさらされ、安保協力の必要性が一層重大化している状況で、文政権は国益と国家安保を無視し、韓米同盟解体を経て(北朝鮮主導の)高麗連邦制と社会主義革命の完成につながるGSOMIA廃棄という自殺行為をあえて行った」と批判、その決定を撤回しないなら、文大統領退陣運動を展開すると警告した。

 ●政権に入り込んだ親北派
 なぜ、文大統領は韓国の安全保障に不利になる決定を下したのか。反日感情を支持率維持に利用しているとか、曺国・法務長官候補のスキャンダルを隠すためといった説明がなされている。私はもっと深刻だと考えている。文政権の権力中枢に多数入っている主体思想派活動家(1980年代、北朝鮮主導の統一を目指す地下革命運動に参加し、いまだに転向していない者たち)は、予備役将軍団が主張するように「韓米同盟解体を経て高麗連邦制と社会主義革命の完成」を目指していると見るべきだからだ。
 日本ではあまり大きく報じられていないが、文政権の安保分野における自殺行為は今回だけではない。昨年9月には南北軍事合意を結び、休戦ライン近くに偵察機を飛ばすことをやめてしまった。北朝鮮が最近繰り返し発射実験をしている短距離ミサイルやロケット砲に対抗するためには、発射の兆候をつかみ破壊攻撃を行うことが一番有効だ。偵察飛行中止でそれが困難になった。それなのに、文政権は北朝鮮の発射実験を合意違反だと言わず、引き続き韓国軍だけに合意を守らせている。意図的に韓国の安保体制を崩している疑いが濃厚なのだ。(了)