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田村秀男

【第1200回】トランプ氏の対中高関税を高く評価する

田村秀男 / 2024.11.18 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 田村秀男

 

 来年1月に発足する米トランプ第2次政権が打ち出すと予想される高関税政策について、国際金融市場の混乱を招くなどの批判が多いが、プラス面をきちんと評価すべきだ。

 ●中国経済成長率激減へ
 トランプ氏は中国からの輸入品に対して60%以上、日本など中国以外からの輸入品には一律10%以上の追加関税を宣言してきた。トランプ氏は、中国が台湾封鎖を強行するなら150~200%の関税をかけると宣言済みだ。
 60%の追加関税の中国に対する衝撃度はいかばかりか。スイス金融大手UBSのエコノミストは中国の国内総生産(GDP)成長率を半減させると予想し、米ゴールドマン・サックスの中国調査部は成長率を2ポイント押し下げるとみる。無理もない。中国の経済成長率のかなりの部分は対米貿易黒字に支えられている。中国GDPの5割前後を占める住宅など固定資産投資は昨年、前年比12%減で、今年も低迷が続く。
 中国の中央銀行である中国人民銀行は金融の量的拡大に慎重で、中央政府も国債増発をためらう。資本逃避は激しく、外国からの直接投資や証券投資も激減しているからだ。難局打開のためには、習近平政権は市場統制を緩め、金融自由化に踏み出すしかない。

 ●騒ぎ過ぎの市場混乱説
 他方で、高関税は米国の平均関税率を大恐慌時代の1930年代並みの高水準に引き上げるとか、米国のインフレ率と金利の高進を警告する金融市場アナリストが西側世界には多い。もしそうなら、トランプ政権も高関税を強行できなくなる。
 だが、トランプ氏は「MAGA」(米国を再び偉大にする)と叫んで大型減税を公約したことが見逃せない。対中60%と中国以外への10%の追加関税で、米国の関税収入はどれだけ増えるのか、昨年の輸入額を基にざっと計算すると、中国からの輸入で2560億ドル、中国以外からの輸入で2680億ドル、合計5240億ドルの関税収入増となる。円換算約80兆円で、日本の一般会計税収(2023年度72兆円)相当分をまるまる確保できる。
 米議会の超党派委員会によれば、トランプ減税案は税収減をもたらし、米財政赤字を10年間で約4兆ドル、年平均で4000億ドル増やすという。だとしても、関税収入増は、こうした財政赤字増分を帳消しにして余りある。
 追加関税は、輸入品価格に上乗せされるので、消費者の懐を直撃するが、その分、各種減税によって消費者に還元させることができる。高関税と減税のセットは経済学上でもつじつまが合う。市場混乱説は騒ぎ過ぎではないか。(了)