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江崎道朗

【第1244回】トランプ関税で問われる日本の対中戦略

江崎道朗 / 2025.04.21 (月)


国基研企画委員・麗澤大学特任教授 江崎道朗

 

 米国のトランプ政権が発動した大規模関税によって国際社会は揺れ動いている。我が国も早速、石破茂首相がトランプ大統領と電話会談を行うとともに、赤沢亮正経済再生相を訪米させ、日米協議を行った。
 世界のマスコミの大半が、トランプ関税は世界経済及び米国民にとってマイナスであると厳しく批判している。冷戦終結後、国際社会は旧東側陣営を引き込んで世界的な自由貿易体制を拡充してきたわけであり、今回のトランプ政権の大規模関税政策はその流れに逆行するものだ。

 ●米通商・投資政策の照準は中国
 では、なぜトランプ政権は自由貿易体制の拡充に逆行する関税政策を打ち出したのか。各国に課す関税の算出根拠が曖昧であることをもって、トランプ政権がでたらめをしているかのような報道も見受けられるが、果たしてそうなのか。
 実はトランプ大統領は就任初日の1月20日、「米国第一の通商政策」と題する大統領覚書を発表し、米国の経済と国家安全保障を守る観点から通商政策の全面的見直しを命じている。具体的には中国などを念頭に輸出管理の強化、対外投資規制の見直しなどを指示した。
 次いで2月21日、トランプ大統領は「米国第一の投資政策」と題する大統領覚書を発表、同盟・パートナー国からの投資を促進すると同時に、中国、キューバ、イラン、北朝鮮、ロシア、ベネズエラのニコラス・マドゥロ政権といった「外国の敵対者」と米国の間の投資を規制することを指示した。
 この覚書では、中国など「外国の敵対者」による対米投資を徹底的に規制する方針を打ち出している。具体的には、米国のハイテク、重要インフラ、医療、農業、エネルギー、原材料、その他戦略分野への中国の投資を制限するとともに、中国の軍事産業部門への米国企業・投資家による投資をさらに抑制し、同盟・パートナー国に対しても中国など「外国の敵対者」と提携しないことを条件に対米投資を歓迎するとしている。
 加えて「外国の敵対者への投資誘因をさらに減らすため、1984年米中所得税条約の停止または廃止を検討する」と明記しており、自由主義陣営の先端技術、知的財産を盗もうとしている中国など敵対国を国際的な投資体制から排除しようとしているわけだ。

 ●同盟国には対中提携抑制を要求
 要はトランプ政権の通商・投資政策には、二つの狙いがあるといえよう。一つは、中国など敵対国に国際ルール順守を求め、応じない場合は通商と投資をさらに制限すること。もう一つは、同盟国などに対して米国への投資をさらに増やし、貿易赤字を減らすよう求めるとともに、中国など敵対国との提携を抑制、制限するよう要求することである。
 このように、中国など敵対国が現在の自由な通商・投資体制を悪用して、米国と同盟国などから技術を盗み、米国などの国家安全保障を脅かしている「脅威」に対処しようとしているわけだ。
 よって問われるべきは、中国の脅威に立ち向かおうとするトランプ政権の対中戦略に日本が呼応するかどうかだ。大局を見据えた議論と対策を求めたい。(了)