公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

石川弘修

【第103回】『決断できない日本』

石川弘修 / 2011.08.22 (月)


国基研企画委員・ジャーナリスト 石川弘修

ケビン・メア前米国務省日本部長が著した『決断できない日本』が19日、文春新書で発売された。対日外交に30年間携わったメア氏の観察は説得力がある。結論から先に言えば、現代の日本政治社会の病巣は、「誰も責任をとりたくないから決断ができない。その結果、重要な問題が先送りとなる」体質にあると、氏は指摘する。

3月11日、東日本大震災が起きた時、米側タスクフォースの調整役を務め、日本側と交渉にあたったメア氏は、米側には福島第一原子力発電所事故に対する菅政権の対応に強い不信感があり、一時は東京から米国民9万人を脱出させる提案さえあったことを明らかにしている。

氏がさらにあきれたのは、米側が送った無人ヘリコプターを含む支援リストに対し、日本側が回答ではなく、ヘリの特徴や性能に関する細かい質問や、事故の場合の補償をどうするかといった、暢気のんきな返信をしてきたことだ。危機意識のない平時の役所仕事で、結局2週間も空費されてしまった、という。

トモダチ作戦への悪意
氏は、米軍の「トモダチ作戦」は同盟国として当然のこと、と考えて推進した。だが、沖縄の反米・反基地新聞が「在沖縄米軍の存在意義を誇示する意図がある」といった社説を載せたのには本当に腹が立った、という。沖縄は日米安保体制の要である。しかし、基地負担を減らすために普天間飛行場などの再編計画を進め、もう一歩のところまできたのに、民主党政権下でストップどころか、後退してしまった。

昨年の尖閣諸島沖での中国漁船の体当たり事件で中国は領土的野心をむき出しにした。さらに中国商務部は最近、息のかかった企業を通じて沖縄の不動産や土地を買いまくり、沖縄自体がターゲットになっていることに氏は警告を発し、中国の脅威に向き合うには日米安保体制が堅固であることが必要だ、と強調する。

悪役の肩代わり
日本の政治家は、国内に対し曖昧あいまいな姿勢をとった方が身は安泰になるため、自民党政権時代を含め米軍基地の必要性をはっきり説明してこなかった。これが今日の迷走を招いている。氏は、総領事として沖縄に赴任した当初から、「紛争を非武装で抑止できると思うのはナイーブ(幼稚)。普天間の閉鎖は不可能です」と明言、県知事から挑発的な外交官とのレッテルを貼られ、地元メディアからは目の敵にされた。

言ってみれば、日本が果たすべき役目を、メア氏が、そして米国が肩代わりし、「悪役」を引き受けた、と言うメア氏。

氏は3月初旬、「沖縄はごまかしとゆすりの名人」と発言したとする共同通信の報道で更迭に追い込まれた。今、民間人となり発言の自由を獲得した氏は、共同の歪曲報道の訂正を求め、汚辱をそそごうと闘っている。氏の更迭事件は他人事ではない。我々は、いつになったら「悪役」を人頼みしなくなるのか。(了)

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第103回:『決断できない日本』(石川弘修)