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冨山泰

【第375回・特別版】米が警戒する中国軍の三つの動き

冨山泰 / 2016.05.16 (月)


国基研研究員兼企画委員 冨山泰

 

 米国防総省は5月13日、中国の軍事力に関する年次報告書を公表した。この中で、2015年1年間に中国は、①南シナ海の人工島で軍事施設の建設を始めた②アフリカ東部のジブチに軍事施設を設置することを発表し、地球規模の軍事プレゼンス拡大に着手した③軍の大々的な組織改革を実行した―という3点で新たな動きがあったと指摘し、中国の軍事動向に強い警戒心を示した。

 ●人工島面積は東京ドーム270個分
 報告書によると、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島での7岩礁の埋め立ては2015年10月までにほぼ完了し、埋め立て面積は2年間で約13平方キロ(東京ドーム270個分)に達した。出現した人工島のうち、四つで通信・監視システムと補給施設が設置され、三つで3000メートル級滑走路と大型港湾施設の建設が進んでいる。
 中国は尖閣諸島のある東シナ海と南シナ海で、当面は米国との軍事衝突の回避を試みながら、長期的には米軍の介入に対抗できる軍事力の構築に力を入れている。報告書は「(中国軍の近代化で)米国の軍事技術の優位は縮小しかねない」と危機感をあらわにした。
 また、中国が2015年11月、ジブチに初の海外軍事支援施設を構築する意図を公式に確認したことについて、報告書は「中国の増大する地政学的な力を反映し、かつ増幅するもので、中国の影響力と軍の行動範囲を広げる」と書き、同施設の地政学的意味に注目した。
 さらに、中国人民解放軍(PLA)の従来の7「軍区」を5「戦区」に再編し、宇宙戦・サイバー戦能力を統括すると伝えられる「戦略支援部隊」を新設するなどの機構再編については、「少なくとも30年間で最も重要なPLAの改革」と位置づけ、軍の統合作戦能力向上と、共産党による軍の管理の強化を図ったと分析した。

 ●比本土近くでも埋め立て準備?
 報告書では触れられていないが、中国は7岩礁とは別に、フィリピンから2012年に奪った南シナ海のスカボロー礁に測量船を最近派遣しており、ここも埋め立てる可能性が出てきた。仮に軍事施設が建設されれば、同礁はフィリピン本土まで200キロと近いことに加え、スプラトリー、パラセル(西沙)諸島と結べば中国の海上軍事施設の三角地帯が南シナ海に形成される事態になり、米国は神経をとがらせている。
 報告書公表に先立って5月10日、米軍は中国の人工島づくりが問題になってから3度目の「航行の自由」作戦を南シナ海で実施し、7岩礁の一つファイアリークロス礁の12カイリ以内をイージス艦「ウィリアム・ロ-レンス」に通過させた。ファイアリークロス礁は3000メートル級滑走路が既に完成した唯一の人工島だ。今回の作戦はその滑走路建設に加え、スカボロー礁での中国の新たな動きを牽制する意味があるのかもしれない。
 5月26~27日に三重県で開かれる主要7カ国首脳会議(伊勢志摩サミット)は、議長の安倍晋三首相が米国だけでなく、南シナ海問題に比較的関心が薄いとみられる欧州諸国からもこの問題で共同歩調を取り付ける好機だ。中国の国際的孤立に拍車をかけなければならない。(了)