国基研理事・拓殖大学大学院教授 遠藤浩一
ここで「策士策に溺れる」といふ諺を持ち出せば、諸葛孔明は苦笑し、曹操は舌打ちするに違ひない。菅直人氏の策はあまりにも浅ましく、小汚かつた。
が、それも、わづか一日で破綻した。そのうち辞めるから不信任案に賛成しないでくれと民主党代議士諸侯に泣きついておいて、不信任案が否決されたと見るや、言を左右にして居座りを図らうとする。これで一気に党内外の反菅・嫌菅ムードが拡大し、本人も周辺も「早期退陣」に言及せざるを得なくなつた。完全に裏目に出てしまつたのである。
首相の存在が復興の妨げ
それにしても、こんなに薄つぺらで小狡い首相は見たことがない。菅氏のマキアヴェリズムには、マキアヴェリが言つた「善き国家の維持」といふ大目的が見当たらない。その浅ましい小策を支へるものは我執、ただそれだけである。
この人は自らの存在が復旧・復興にとつて最大の妨げとなつてゐることを理解してゐない。衆議院と参議院がねぢれてゐる状況では、野党の協力がなければ政策決定はできない。その野党の大半が菅氏に対して不信任を突きつけた以上、その成否にかかはらず首相の交代は必須なのである。
ところが菅氏は2日の代議士会で、被災地復興や被災者救済よりも民主党の保全と自民党政権復活阻止を上位に置いて信任を訴へた。自らの延命のために、与野党の対決構図をことさら強調してみせたのである。これでますます菅内閣の下で〝挙国一致〟を図るのは難しくなつた。かうなつたら、一日も早く辞めることだ。
早期解散含みなら大連立も
菅首相退陣後は、与野党の協力関係を構築することが急務である。大連立も取り沙汰されてゐるが、期間を限定し、早期解散を含みとするならば、それもいいだらう。ただし〝ポスト菅〟内閣の仕事は、①被災者救済と被災地の復旧 ②当面(緊急不可欠)の復興策策定と実行 ③福島第一原発の事故処理 ④選挙管理―に絞り、本格的な復興策やその財源、エネルギー、経済成長などについては、総選挙後に発足する新政権に託すべきである。
なぜなら、平成21年総選挙で民主党を政権に就けた頃の民意は、当然のことながら今回の大震災を想定してゐなかつたからである。子ども手当、高校無償化、高速道路無料化、農家への戸別所得補償などのバラマキ政策を羅列し、一方で増税を否定することによつて政権を獲得した民主党政権は、莫大な財源を要する復興策を策定する適格性を欠いてゐる。
早期解散によつて民意を問ひ直すことが、本格的な復興策策定の前提となる。つまり、〝ポスト菅〟内閣には、早期に解散・総選挙が実施できるやう被災地の復旧を急ぐといふ重大な使命があるわけだ。同時に衆参の〝ねぢれ〟の弊害を除去するためには、政界再編について、真剣な検討と行動が必要となるであらう。
*注――「策士策に溺れる」は諸葛孔明の言葉で、「策士」は曹操とされる。
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第92 回:平成23年6月6日〝ポスト菅〟内閣の役割(遠藤浩一)
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