公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第93回】よみがえった内モンゴル抵抗運動

櫻井よしこ / 2011.06.13 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

内モンゴル人はもはや抵抗のために立ち上がることさえできない――。内モンゴル人自身がそう考えてきたほど、彼らは漢民族によって徹底的に弾圧され、粛清され、虐殺されてきた。

大部の『内モンゴル自治区の文化大革命 モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料』をまとめた静岡県立大学教授、楊海英氏は、内モンゴル人の家族で中国共産党の弾圧により一人の死者も出していない家族は皆無だと断ずる。

中高生中心の2000人デモ
だが、その内モンゴルで5月以来、デモが続発した。遊牧民2人が相次いでトラックにき殺されたことを直接のきっかけとして、小規模デモがまず 5月23日に起き、次いで25日には2000人が参加した。

デモは、高校生、中学生を中心になされたが、彼らは、内モンゴルの全知識人が一掃されたといわれる1960年代から10年続いた文化大革命の粛清にたおれ、次に漢民族の内モンゴル大量移住政策への1982年の大規模抗議に対する凄惨な弾圧で死と沈黙に突き落とされた人々に続く、若い世代である。

この2000人デモの意味の深さと重要性は、中国政府の内モンゴルに対する弾圧と虐殺の徹底ぶりを知り、内モンゴルの人口構成を知れば、極めて明確になる。文革だけでも内モンゴル人口の15%が殺害され、いま、400万人強のモンゴル人口に対して、漢民族は2000万人強に達する。

圧倒的多数を占める漢民族の手には、容赦なく内モンゴル人を粛清する警察力と軍事力がある。今回も、これまで通り、中国政府は内モンゴル抵抗運動を鎮圧するだろう。しかし、それで少数民族の反中国の動きが絶えるわけではない。

通信革命で広がる民主化要求
米議会下院の公聴会は中国政府の弾圧を天安門事件以来最悪と断じたが、中国の国内治安対策費は軍事費を超える6244億元(約7.8兆円)に達した。国民の政府批判や不満を、有無を言わさず弾圧する中国政府の体質を世界にばく露する数字である。それでも、中国政府は年間約20万件の暴動に直面しているのである。

加えて、いま世界は通信革命による国家体制の激変期を迎えている。チュニジアを皮切りに中東に広がった通信革命は、中国政府が恐れる、一党独裁、言論弾圧、自由の抑制、究極の人権弾圧に対する国民抗議運動を可能にし、拡大する。

強力かつ新たな情報伝達能力を手にした国民の民主化要求運動は、もはや誰も止めることができない。中国とても、その一党独裁体制に替わる民主化を受け入れざるを得ない方向に、人類の歴史は、ゆったりと、しかし大きく方向転換しつつある。(了)

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第93回:よみがえった内モンゴル抵抗運動(櫻井よしこ)