公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第94回】「ポスト冷戦後」に大乱の兆あり

田久保忠衛 / 2011.06.20 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

冷戦終焉から10年経った今年、2011年は国際政治の分水嶺になるのかもしれない。冷戦、米一極時代の国際秩序が崩壊し、世界の警察官の役割を戦後一貫して演じてきた米国が、東アジアは別として一種の孤立主義に陥っていく傾向が次第にはっきりしてきた。
 
迫る米軍のアフガン撤退開始
すでにイラクからの撤兵に着手したオバマ米政権は、アフガニスタンからの撤兵を7月に開始する。その規模を大きく、テンポも早くせよと主張してきたバイデン副大統領をはじめとする政府首脳や民主、共和両党議員の多くに対して、ゲーツ国防長官やペトレイアス・アフガニスタン駐留米軍司令官は年内がタリバン掃討の正念場だと強く反対している。

オバマ大統領は近々結論を下すが、7月から撤退が始まることは公約だ。バイデン副大統領らにとっては、オサマ・ビンラディン殺害が追い風となっている。

休戦協定をどう結ぶのか、そのあと米国と同盟諸国の軍隊が引き揚げる手順をどうするか、暫定政府ができるのか、アフガニスタン政権と「タリバン政権」が並立されるのか―。難問を一つ一つ解決していくのは容易ではない。

米国は光栄ある撤退をするのか、それとも完全な勝利を収められずにこの地域からやむを得ず手を引くのか。米軍撤退を世界はどう解釈するか。キッシンジャー元国務長官は、朝鮮戦争にしてもベトナム戦争にしても、国民のコンセンサスを得たうえで戦争に突入し、途中で戦いに幻滅し、戦略は忘れて出口を探し求めるとの共通点があると指摘している。鋭い指摘だと思う。

注目される中ロの動き
アフガニスタンは2014年の撤兵完了に向かって国際テロリストの絶好の基地になると考えないわけにはいかない。「9.11」テロ以降、「国際テロとの戦い」の中に中国はウイグル、ロシアはチェチェン独立運動を押し込めてしまった。米国もそれを是認した。

米国なきあと、中ロ両国はどのような立場に立たされるか。米国とアンビバレント(どっちつかず)の関係にあったパキスタンは中国と、インドは自衛上ロシアとの関係を強化しないわけにはいかなくなる。

「中東の民主化革命」はリビアやシリアで「逆民主化」を生んでいる。国連安保理事会や国際原子力機関(IAEA)の場で、シリアを非難する米国と擁護する中ロ両国は激しく対立している。「ポスト冷戦後」の時代はまさに天下大乱の兆ありだ。(了)

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第94回:「ポスト冷戦後」に大乱の兆あり (田久保忠衛)

 

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