公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

ジェームスアワー

【第132回】新しいボトルの古いワイン

ジェームスアワー / 2012.03.12 (月)


米バンダービルト大学教授 ジェームズ・アワー

政治家は、困難で不人気な決定に直面すると、新しい立場を取ると主張し、態度を明確にしない選択をするときがある。その新しい立場は、実際には何の変化もなかったり、場合によっては事態をますます悪化させたりする。

米国の国家安全保障戦略の「基軸」にアジア太平洋地域重視を据えるという最近の方針は、「現状維持」を「前向きな変化」と偽る一例であり、沖縄の普天間米海兵隊飛行場の閉鎖を嘉手納空軍基地以南の6つの米軍基地の閉鎖と切り離すという日米両国政府の決定は、ずっと先延ばししている決定をさらに先延ばしする一例ではないだろうか。

誇大宣伝の「アジア重視」
空軍と海軍はその性質上、地上軍に比べて機動力があるため、危機に迅速に対応する能力が相対的に高い。オバマ米政権は、イラクとアフガニスタンにおける陸軍と海兵隊の関与を終わらせるだけでなく、海空軍を含む米軍全体を削減することによって、米国防支出を大幅に減らしたいと考えている。

米国の安全を危険にさらすという批判を心配して、オバマ政権は「アジア太平洋地域優先」を大げさに宣伝しているのだ。

確かにアジア太平洋地域は非常に重要であり、南シナ海での航行の自由など米国の死活的に重要な利益を確保するためにこの地域で米軍の能力を高めることは無駄ではない。しかし、米国の国家安全保障の「基軸」とは、既に限界まで働いているアジア太平洋地域の米軍が、他の地域や米国内に配備された米軍に比べて削減される可能性が小さい、というほどの意味のようだ。

アジア太平洋地域を優先することは米国の利益にかなうが、それで能力が向上するとほのめかすのは誇張である。せいぜい現状の維持となる可能性が大きい。

「普天間切り離し」は間違い
在沖縄米軍の再編を10年間にわたり日米で共同研究し、すべてのあり得る選択肢を検討した後、七つの米軍基地を閉鎖してその土地を日本に返還し、米第7艦隊の重要な戦闘部隊である普天間飛行場のヘリコプター部隊を沖縄県北部の辺野古近くのキャンプ・シュワブ沿岸部へ移転するという合意が2006年に成立した。

この合意は、高収入の土地賃貸料を失うことを心配する普天間などの基地の地主を除き、沖縄政財界の事実上すべての人に受け入れられた。

2009年の選挙戦で普天間のヘリ部隊の県外移転という非現実的な公約を唱えた鳩山由紀夫氏は、首相としてこの公約を実行できなかった。米軍再編合意のうち普天間移転の部分を他と切り離すのは大きな間違いだと私は思う。

存続する普天間にヘリ部隊が居残ることは明らかだが(英語でいう「FRF」〈普天間代替施設〉は「FIF」〈普天間の恒久化〉に取って代わられそうだ)、普天間の運用の支援に必要な他の6基地が早急に閉鎖されて日本に返還されることはありそうにない。

古いワイン(国防予算の大幅削減と、2006年の米軍再編合意の実行の遅れ)は新しいボトル(アジア太平洋への基軸の移動と、2006年合意からの普天間の切り離し)に入れたくなるが、ボトルを交換するだけでは、ワインの味は良くならない。(了)

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第132回:新しいボトルの古いワイン(ジェームズ・アワー)