公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

松田学

【第133回】消費税増税を景気回復につなげるために

松田学 / 2012.03.19 (月)


大樹総研特別研究員 松田学

財政再建か景気か。この不幸な二項対立論が、課題解決への日本の決断を鈍らせている。本欄(第127回)で筆者は「社会保障と税の一体改革」の基礎知識として、5%程度の税率アップは選挙の対立軸にもならない最低限の措置だと論じた。だが、筆者の立場はむしろ「経済政策と税の一体改革」にある。それは、消費税増税が景気回復にもつながる第3の道だ。

赤字国債に歯止めを
残念ながら、リーマン・ショックで膨らんだ過剰マネーの下での欧州債務危機は、一国の財政を投機の材料と化し、国際金融マーケットは財政状況に対して過敏になっている。

もし日本がまたもや税率引き上げを先延ばしすれば、国債の売りが誘発され、金利の上昇が消費税増税とは比較にならない打撃を景気に与える懸念がある。

1000兆円近い国の債務残高の下、数%の金利上昇でも年間利払い費を10兆円単位の規模で増加させる可能性がある。国債は追加発行に追い込まれる。国債価格の下落(=金利上昇)による銀行資産の劣化は、国民の預金まで危うくする。少なくとも、銀行の貸し渋り・貸し剥しでデフレは深刻化するだろう。

だが、日本のマクロ経済でいま必要なのは、デフレ脱却に向けて実需を生む積極財政だ。ここで、将来世代に向けて資産を形成する建設国債と、ツケだけを残す赤字国債を区別する必要がある。日本国債の信認に直結する財政規律の問題とは、社会保障負担を赤字国債で将来世代にツケ回してきた、だらしない財政運営を指す。消費税引き上げでこれに歯止めをかけ、規律の問題にケリをつけてこそ、建設国債増発を財源とする政府投資による景気対策が可能になる。

幸い、個人と非金融法人合わせて2000兆円を優に超える日本の金融資産と、世界最大の対外純資産は、国内でのより有為な運用先を必要としている。建設国債は、それに応えるものだ。投資の拡大は貯蓄と新たな資産を生む。こうしたマネー循環で、高齢化による貯蓄(マネーの源泉)の目減りを克服する。被災地の復興と防災安全国家の建設は、意味ある資産形成で実需を創出する政府投資の好機である。

メリハリのある財政運営を実現せよ
答えは、行革や財政規律を旨とする赤字国債の世界と、積極財政を旨とする建設国債の世界とを峻別し、前者を減らし後者を増やす政策の組み合わせにある。この際、政府の一般会計を、建設国債を財源とする「政府投資勘定」と、その他の「経常勘定」(税収や赤字国債が財源)に分けてはどうか。さらに後者から、本質的には国民から国民へのおカネの移転に過ぎない「社会保障勘定」を切り出し、その財源として消費税を位置づける。

その不足分は将来世代の負担(赤字国債)だ。これで、消費税とは行革の問題ではなく、専ら社会保障の受益と負担における世代間の公平の問題であることも明確になる。このような、財政の論理を超えた「区別の論理」が、国民にコストと効果の関係が見えるような仕組みの構築につながり、全体としてメリハリのある透明な財政運営を実現する。国民自らの判断と納得の下になされる消費税引き上げであれば、それは「希望ある増税」になるのではないか。(了)

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第133回:消費税増税を景気回復につなげるために(松田学)