大樹総研特別研究員 松田学
消費税率の5%引き上げを巡り、解散・総選挙も囁かれているが、それは今の日本に必要な最低レベルにも満たない措置であり、国政選挙の選択肢になるものか疑問である。
私たちの世代の責任
国民は、高齢世代と現役世代と将来世代から成る。その国民全体では、消費税増税は負担の増加にならない。高齢世代や現役世代が(赤字国債の償還に必要な負担の形で)将来世代に押し付けている税負担の一部を、高齢世代や現役世代へとシフトさせるに過ぎないからだ。
現在、国の予算総則は、消費税収入のうち国に入る分の使途の全額を、基礎年金、老人医療、介護という高齢者向け社会保障に限定している。それら3経費の国の支出は年間で約17兆~18兆円、これに対し、国に入る消費税は7兆円余り、毎年度の不足分約10兆円は、赤字国債として将来世代の負担へとツケ回されている。
自分を育ててくれた親の面倒をみるのに、その大半を子や孫にツケ回す姿は道徳的にいかがなものか。これを正すのが消費税増税である。国の財政の問題である以前に、私たちの世代としての責任の問題であろう。
社会保障に使う税金とは、国民の間でのおカネの移転である。政府はその仲介役に過ぎない。年金や医療の改革でその額を少なくする(その場合は高齢世代の負担が大きくなる)努力は必要だが、消費税増税で政府の懐が豊かになるわけではない。「消費税の前に行革」も大切だが、本来は筋が違うことにも留意が必要だろう。
日本が目指す国家像は?
「社会保障と税の一体改革」では、消費税収の使途は国・地方ともに社会保障に限定されるが、その限定先が高齢者向け3経費から、年金、医療、介護、少子化対策の「社会保障4経費」へと広がる。2015年度にその額は40兆円強、現在の消費税率5%では国と地方の消費税収入は13兆円弱と、その3分の1しか賄えない。10%に上げれば約27兆円で、約3分の2が賄える。
つまり、社会保障の財源不足の幅を3分の1まで縮小させるのが今回の提案だ。4経費を全て消費税で賄うには、消費税率を16%にする必要がある。日本と同じく高齢化が進む欧州をみても、世界標準は概ね20%。日本は普通の先進国に仲間入りすることになる。消費税率の引き上げ目標は、一応16%に設定するのが常識的な線だろう。
日本がどのような型の国家を目指すのかという、有権者にとって本質的に意味のある選択肢は、16%への引き上げの先にあるテーマなのである。大陸欧州型の「公助」(政府が手厚いセーフティーネットを提供)を旨とする国家なら、消費税率は20%台半ば以上、米国型の「自助」を旨とする国家なら10%台半ばまで、日本型の「共助」(民の間の助け合い)を組み立てる道なら、国民の創意工夫で消費税率を20%前後に抑えることが課題になる。
政界が消費税の政局化に明け暮れ、こうした国民選択の前提にすら辿り着けないようでは、日本は「日本化」(課題解決への決断が出来ない国)との汚名を返上できないままだろう。消費税率引き上げは景気にもプラスであるが、それは稿を改めて論じてみたい。(了)
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第127回:消費税引き上げで国民の負担は増えない(松田学)