公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第126回】「弱者の恫喝」に経済制裁で対抗せよ

田久保忠衛 / 2012.01.30 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

「弱者の恫喝」という点で北朝鮮とイランは同じだと思う。国際原子力機関(IAEA)が報告書を出して、イランの核開発が進んでいるとの具体例を世界に示したあと、米オバマ政権は昨年12月にイラン中央銀行を狙い撃ちにし、同行と取引をしている外国銀行は米市場から締め出すと発表し、次いで1月23日には欧州連合(EU)がイラン原油を輸入しない措置を取った。

普通の国家であれば完全にお手上げだが、イラン政権要人から「ホルムズ海峡封鎖は水を飲むより簡単だ」とか、「原油は一滴たりとも海峡を通さない」との発言が相次いだ。

緊張するペルシャ湾情勢
米、EU側がこれに対して「強がりを言うな」と笑い飛ばせないところに国際政治・軍事問題の機微が潜んでいる。経済的締め付けのほかに、米国は空母「ジョン・ステニス」「カール・ビンソン」「エーブラハム・リンカーン」の3隻をペルシャ湾に出動させている。

この軍事的威力に加えて、イスラエルによる先制攻撃はいつ実施されるか分からない。自国の生存のためにイスラエルはいかなる手段も決して躊躇しないことは、1981年のイラク、2007年のシリアにおける原子炉攻撃で証明されている。イラク、シリアとも二度と核開発はできなくなった。

しかし、イランの核施設は1カ所ではない。ペルシャ湾岸沿いの基地は強化されてきたし、射程200キロの中距離ミサイルは、世界の原油の20%、日本の輸入原油の80%が通過するホルムズ海峡に向けられている。一発の発射で油価は上昇し、不況に悩むEUをはじめとする世界経済はパニックに陥る。

もちろん、米軍やイスラエル軍の一斉反撃でイランは崩壊する。一方、イランの核開発を阻止できなければ、イランの天敵サウジアラビアは核開発に突っ走り、これを契機に世界中に核拡散の新しい波が広がっていく。地球誕生以来、最大の恐怖の時代が人類に訪れるかもしれない。
 
巧妙なイラン外交
イランは巧妙にこの心理を読みながら外交を続けてきた。今回のペルシャ湾の危機は回避されるだろう。イラン側はトルコの仲介で米、英、仏、中、露プラス独の6カ国と交渉再開に応じる水面下の外交を続けている。交渉が再開されたとしても、イランの核への接近は止まらない。北朝鮮が6カ国協議に応じるような態度を時には示し、時には冷淡を装いつつ、カネ、モノ、エネルギーなどをせしめているのと同じだ。

経済制裁措置を強化するのが得策、とオバマ政権はどうやら気付いたようだ。であれば、北朝鮮に対しても、かつてマカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)に金融制裁を加えたように、北朝鮮と取引のある金融機関への圧力を再び強化してはどうか。(了)

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第126 回:平成24年1月30日「弱者の恫喝」に経済制裁で対抗せよ(田久保忠衛)