7月9日の関税交渉の期限が迫る中、トランプ米大統領が日本に対して不満をあらわにし、30~35%への税率引き上げを示唆して、日本に衝撃が走った。矛先が向けられたのは自動車とコメというお決まりのパターンだ。日本はコメが不足しているのに、米国からコメを受け取ろうとしない、と非難した。日本に圧力をかけて 譲歩を引き出したいのだろう。
●大統領の「思い込み」を変えられず
トランプ氏の発言はこれまでの「思い込み」を繰り返しているだけなので、日米交渉がうまく行っていないと過剰反応をする必要はない。
こうした発言の背景にはトランプ政権内の事情がある。赤沢亮正経済再生相の7度にわたる訪米によって、閣僚間の協議は着実に進展していると米政府関係者も認めている。しかし、日米交渉責任者のベッセント財務長官はトランプ政権の目玉政策である減税法案の議会通過に忙殺され、交渉の進展をトランプ氏にまだうまく説明できていないのだ。そうした状況下でのトランプ氏の発言なのだ。
ただし、トランプ氏は4月初めにおける記者会見での発言と同じく、コメと自動車への不満を繰り返していることは要注意だ。これまで3カ月間、石破茂首相は1回の対面での首脳会談と3回の電話会談をしている。問題は、これらの機会を通じてトランプ氏に何も響いていないということだ。
●農産物が合意の制約に
さらにベッセント長官は「日本は参院選を控えていることが合意の制約となっている」と重要な発言をしている。これは明らかに農産物を念頭に置いたものだ。赤沢氏は自民党の意向を受けて「農業を犠牲にする交渉はしない」と言っており、交渉で農産物カードを切ることができなかった。
しかし、トランプ政権が重視するのは農産物であることは、グリア通商代表が議会公聴会でも発言している。トランプ氏のコメ発言も、コメが日本市場の閉鎖性の象徴とされているからだ。
日本政府内では交渉の初期段階で、日本がコメを無関税で輸入する「ミニマムアクセス」に米国産米の特別枠を設ける案が浮上していた。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉では米国から最大7万トンのコメを無関税で輸入する枠を設ける合意をした経緯もある。農家に打撃を与えることなく、「トランプ対策」として象徴的に日本の生産量の1%程度のコメの輸入枠を設定するのは、政府備蓄米を放出している現状を考えると理にかなっている。しかし、これさえも党内農林族からの反発で石破首相は決断できなかった。このトップの戦略判断のミスが今日のトランプ発言につながっていると言っても過言ではない。
●避けて通れないコメ
交渉が長引けば、日本企業はトランプ関税の負担を長期間抱え続けなければならない深刻な事態だ。石破首相が裾野の広い自動車産業を守ることを「大きな国益」と言うならば、コメの問題は避けて通れない。関税交渉でトランプ砲を浴びている責任は石破首相自身にある。(了)