公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第1268回】原爆正当化発言に米国の自省を求める

櫻井よしこ / 2025.06.30 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 トランプ米大統領がオランダのハーグで語ったことを、日本国は聞き流すわけにいかない。氏は以下のように語っている。
 「米軍によるイラン核施設の攻撃が(イランとイスラエルの)戦争を終結させた。広島と長崎の例を持ち出したくはないが、本質的には同じことだ。米軍の攻撃が戦争を終わらせたのだ」
 普段、控え目で礼儀を重んずる日本人は国際社会への発信も控え目だ。戦争に敗れたこともあり、日本人は米国に対して耐え忍ぶことが多い。しかし、そこまで言われるのであれば、日本国の立場も表明しなければならない。

 ●イラン攻撃と広島・長崎は根本的に違う
 米国はわが国による真珠湾攻撃を非難してやまない。わが国による宣戦布告がワシントンの日本大使館の不手際によって遅れ、攻撃開始後になったことを以て、当時のフランクリン・ルーズベルト米大統領は「卑劣な攻撃」と論難した。だが、日本軍の攻撃はハワイの軍事基地に限られていた。
 4年弱の熾烈な戦いを経て敗北に向かう中で、わが国は旧ソ連を仲介役として停戦、降伏への道を探った。それが旧ソ連の裏切りによって実現しなかったことは、ヤルタ会談の当事者である米国自身が承知しているはずだ。
 降伏を模索する日本に、米国は広島、長崎への核攻撃を実施した。双方合わせて20万人の人々がその年のうちに亡くなった。双方の街は軍事基地でもなく、犠牲者の殆どは民間人だった。
 戦争終結のために広島、長崎への攻撃が必要だった、イランの核施設攻撃と本質的に同じだったとの主張は、家族を失った幾十万の日本国民も日本国も到底受け入れられない。米軍のイラン攻撃は明確に核施設に限定されていたが広島、長崎、さらに言えばそれに先立つ数々の日本の都市への空襲は、基本的に庶民の暮らす街を狙ったものだった。核兵器製造を目指し続け
たと思われるイラン核施設への攻撃と、降伏を目指してむなしい交渉の道を探ろうとしていた日本国、その街々、そこに住む人々への攻撃は根本的に異なる。

 ●首相は国民の反発を大統領に伝えよ
 歴史の実態について、基本的な理解を欠いた今回のような発言が同盟国からなされる時、私たちの心に苦い想いと反発が生じるのは自然なことだ。日本国としても日本人としても、到底受け入れることのできない大統領発言に関して、米国の自省を強く求めるものである。
 石破茂首相は理屈を好む人だ。トランプ発言は普段は表面化しない日米の絆の深い部分にある最も機微な点に触れるものだ。大事なことだからこそ、しこりを残さない真摯さが必要だ。
 日米は従来よりも幅広く、より強い同盟を実現すべき局面にある。両国の強い絆こそが中国の脅威を抑止し、世界を平和に導く力となる。だからこそ、トランプ氏の発言への日本国と日本国民の反発が、どのような理由によるものか、どれほど深いものかを、米国に率直に伝えるべきだ。日米の強い同盟はその先に初めて実現するだろう。(了)