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西岡力

【第227回】日本の法整備を待たない朝鮮半島情勢の緊迫

西岡力 / 2013.12.24 (火)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

 

 「在北京韓国大使館に北朝鮮の大物亡命者がかくまわれている。その人物は北朝鮮の核ミサイル開発に関係していた」。12月上旬から流れている情報だ。そして、その大物が白世峰第2経済委員長(国防委員)だという情報が数日前から流れて、関係者を緊張させている(韓国・文化日報18日、NHK19日報道)。もし、この情報が正しければ重大事態だ。私も在北京韓国大使館に大物亡命者がいるという情報を入手していたが、ごく最近、第三国の情報筋から、逃げたのは2人で、その中に白が含まれるかは不明だが、既に1人は12月上旬ごろ韓国に入った、という話を聞いている。

 ●北の大物亡命説
 第2経済委員会とは1970年代、北朝鮮の計画経済を取り仕切る政府から軍需産業部門が分離され、核、ミサイルから通常兵器に至る全ての武器、軍装備の開発生産と輸出までを総括するためにつくられた機関で、白世峰が2003年から委員長を務めている。
 白は処刑された張成沢と近かったことが知られ、つい最近の党幹部の葬儀委員名簿と金正日死去2周年行事参加者名簿から落ちている。白が亡命すれば、北朝鮮の核ミサイル開発の現状、通常兵力、武器輸出などに関する機密情報が全て暴露されることになる。また、白は軍事挑発作戦についても、かなりのことを知っているはずだ。
 南在俊・韓国国情院長は12月23日、張成沢側近の亡命説を「事実でない」と否定したが、亡命者が大物の場合、その事実を隠すことはこれまでもよくあった。

 ●黄海で局地戦の恐れも
 米国の全国ネットテレビは、北京の韓国大使館に逃げ込んだ核ミサイル開発関係の大物亡命者の情報により来年1〜3月に北朝鮮が軍事挑発を準備していることが判明し、米韓軍は警戒を高めていると報道した。確かに、米韓軍は突然、1〜3月の北朝鮮挑発説を言い出し、警戒を強めている。韓国は李明博前大統領の時代に一度廃止した国家安全保障会議(NSC)を急遽復活させた。
 南院長も、北朝鮮が黄海の島嶼地域で兵力と訓練を強化していることから「来年1〜3月に韓国への軍事挑発を行う可能性が高い」と語っている。北朝鮮が黄海の島などで局地戦を行うなら、米韓軍は大規模な報復作戦を実施すると予告している。平壌にある金日成の銅像の爆撃計画があるという話さえ漏れてきている。そうした作戦には在日米軍が参加する可能性が高い。
 日本政府は北朝鮮情勢に関する機密情報を米韓両国からどの程度提供されているのだろうか。民主党政権時代から議論されてきた日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改定は来年末まで先送りされた。日本の集団自衛権行使に関する憲法解釈変更が先延ばしになったためという。朝鮮半島情勢の緊張は日本の法整備を待ってくれない。(了)