公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第246回】中国の野望を封じる包囲網形成を

湯浅博 / 2014.05.12 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 湯浅博

 

 南シナ海に「9段線」と呼ばれる境界線を勝手に引き、沿岸国から島々を分捕る振る舞いは、まるで19世紀の帝国主義のそれである。フィリピンから強引に島を奪取した中国が、今度はベトナムと争うパラセル諸島で、石油掘削装置(リグ)の設置を強行した。リグを護衛するために、7隻の軍艦を含む80隻という異常な数の艦船を動員している。元来、争いごとを嫌う東南アジア諸国連合(ASEAN)も、ついに「深刻な懸念」を表明する異例の外相会議声明を出した。中国がサラミを薄く切るように進める「力による現状変更」は、アジア各国を中国包囲の結束に駆り立てるだろう。

 ●尖閣事件を再演した中国船の体当たり
 中国は、リグ設置に抗議するベトナム船が「故意にぶつかってきた」と虚偽の非難を繰り返した。実際には、中国船が強力な放水銃を使用し、ベトナム船に体当たりするビデオ映像の動かぬ証拠があった。この中国船の戦法は、2010年に東シナ海の尖閣諸島周辺で中国の不法漁船が日本の海上保安庁巡視船に体当たりした事件で先刻承知である。あの時は、中国に気兼ねする民主党政権がビデオを公開せず、起訴もせずに船長を帰還させるという体たらくであった。
 こうした中国の独断的な姿勢を、フィリピンのアキノ大統領が米有力紙で、第二次大戦前のヒトラーになぞらえたことがある。中国は2012年に、フィリピンと領有権を争うスカボロー礁を強引に実効支配している。
 米国のオバマ大統領は先に、日本、韓国、マレーシア、フィリピンを歴訪して安全保障の提供を確約した。中国がオバマ歴訪直後にベトナムに力を行使した背景には、米国やASEAN諸国の決意を試そうとする意図がある、と米国の戦略家は見ている。

 ●帝国主義の行動パターン
 19世紀のドイツの鉄血宰相ビスマルクは、国際法に対する帝国主義の心得として「自分に都合のよいときだけこれを守り、自分に都合が悪くなるとすぐに兵を繰り出す」と述べている。中国の行動パターンと似てはいまいか。
 国連の海洋法条約は紛争当事国に「合意の成立を危うくしたり阻害したりすべきでない」と勧告している。中国の一方的なリグ設置は、この勧告に違反しているのだ。さらに、中国がASEANと合意した「行動宣言」にも反し、ASEANが望む法的拘束力を伴う「行動規範」の協議を先延ばしにする。
 では、中国の野望をどう封じるべきなのか。ベトナムもフィリピンも中国を侵略者として外交キャンペーンを展開し、ASEANだけでなく広く国際社会に訴えようとしている。日本はこれに呼応して、素早く集団的自衛権の行使容認を宣言し、同盟国の米国を対中抑止に巻き込むべきであろう。沿岸国の結束こそが中国を孤立させ、帝国主義的な行動が逆効果であることを示す道ではないか。(了)