公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第266回】オバマ大統領はテロ組織と戦えるか

田久保忠衛 / 2014.09.29 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 2001年の米同時多発テロに際して、当時のブッシュ大統領がアフガニスタン、イラクへの戦いを広げたのは完全に失敗だったとの俗説が米国内でも日本国内でも定着した感があったが、どうも最近の中東情勢を見ていると、その評価は逆転し、ブッシュ政権は正しかったのではないかとの評価がよみがえってきたような印象を受ける。
 確かにブッシュ政権は巨額の戦費を費やし、兵士、民間人を問わず大きな犠牲を出して、米国民は海外での戦いを嫌うようになった。しかし、ブッシュ政権末期にイラクの国際テロリストは活動の余地がなくなり、曲がりなりにも民意を反映する政治システムである民主主義は成立していたのではないか。

 ●過激派の台頭招いた米軍撤退
 オバマ大統領は11年にイラクからの撤兵を完了し、16年にはアフガニスタンからも軍隊を引き揚げると公言してきた。これがテロリストへどのようなシグナルになるか、大統領は分かっていたのか。
 米同時テロ後の13年間にテロリスト勢力の力関係は変わり、シリアとイラクにまたがる広大な地域に過激テロ組織「イスラム国」が支配を確立してしまった。イスラム国は当面、中東における脅威だが、ジェームズ・クラッパー米国家情報長官は「米国や欧州諸国を直接の攻撃対象とする『ホラサン』はイスラム国に負けず劣らず脅威だ」と述べた。イスラム国はアイマン・ザワヒリを指導者とするアルカーイダと手を切っているが、ホラサンは関係を持っている。が、アルカーイダは今や二軍的な存在になったとの説が有力だ。
 オバマ大統領は、10年末から中東・北アフリカで起きた民主化運動「アラブの春」に何の行動も起こそうとしなかった。シリアへは介入の時機を逸し、ロシアに外交上の主導権を奪われてしまった。その間に、シリアの反体制側に加わる形でイスラム国が勢力を扶植し、イラクにまで乗り出してきた。相手に改宗を迫り、応じない場合には惨殺する。女性を性奴隷にし、米人ジャーナリスト2人と英人1人を処刑してその映像を世界中にばらまいた。これに対し、オバマ大統領は多国籍軍結成を呼び掛け、サウジアラビアなど中東5カ国と共にイラクからシリアへと空爆の範囲を広げた。

 ●空爆はイスラム国の罠?
 これはまんまとイスラム国が仕掛けた罠にはめられたと喝破したのは、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのコラムニスト、ジェラルド・F・サイブ氏と、米保守系評論の第一人者チャールズ・クラウトハマー氏だ。
 テロリスト側は空爆が激しくなればなるほど英雄になり、差し当たってオバマ大統領は軍事的に成功するが、戦いが長引くと米国世論は厭戦機運に陥り、ついには手を引く筋道が相手に完全に読まれている、と両氏は指摘する。欧州諸国はまだどこもシリア空爆に参加していない。オバマ大統領が成功する保証はない。(了)