公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

太田文雄

【第265回】中国海軍の弱点を突く自衛隊の役割

太田文雄 / 2014.09.22 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 9月19日、トシ・ヨシハラ米海軍大学教授の「アジアの海洋における日本の将来の役割」という講演を拝聴した。講演の骨子は「中国海軍の海洋進出阻止のため、日本は南西諸島沿いに潜水艦の配備、機雷敷設、高速艇によるゲリラ攻撃、そして陸上自衛隊対艦ミサイルの配備を行うことにより、米軍が攻勢作戦をとるまで中国海軍の艦艇を第一列島線内に封じ込めることが中国を相手にした効果的な競争戦略」とするものである。
 中国海軍にとって、南西諸島から台湾、フィリピン、インドネシアに至る第一列島線内に封じ込められるのが最も嫌であることは、陸自対艦ミサイルを南西諸島沿いに配備する計画が報道された今年6月に、中国の外務省をはじめ国防関係シンクタンクがこぞって懸念を表明したことからもうかがえる。

 ●競争戦略の基本は「孫子」
 競争戦略とは冷戦時代に考えられた「ソ連の弱点を西側の強点で突く戦略」であり、現在でも米国防総省ネットアセスメント室の対中戦略はこの考え方を踏襲している。その基本は「孫子の兵法」虚実篇にある「兵の形は実を避けて虚を撃つ」、即ち敵の弱点を我が強点で攻撃する非対称戦である。
 中国海軍の弱点は水面下の戦い、即ち対潜水艦戦及び対機雷戦であるのに対し、海上自衛隊は創設以来、両者をお家芸としてきた。これに加えて海自のミサイル艇隊や陸自が開発した対艦ミサイルを南西諸島沿いに配備することで、相乗効果が期待できる。
 ただし、第2次世界大戦中の1944年前後、帝国海軍の及川古志郎海上護衛司令長官も、米海軍の東シナ海侵入を阻止するため同様の機雷敷設を構想したが、帝国海軍ですら所望の機雷を確保することができなかったので、沖縄本島・宮古島間のような幅広い海域は潜水艦で対処する等、有効な組み合わせが必要となってくるであろう。

 ●垂直及び水平的展開を
 陸上自衛隊に東シナ海の捜索・監視を行わせるのは限度があるため、海・空自の航空機や偵察衛星によらなければならず、その意味では陸・海・空の3自衛隊間のみならず国家情報機関との垂直的統合作戦能力の真価が問われることになる。
 同時に、南西諸島以南の第一列島線に関しても台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシアといった海洋国家群と協力して本構想を水平的に展開させることは、中国の海南島に配備されている晋級弾道ミサイル原子力潜水艦を封じ込める意味で効果的である。なぜなら現在、晋級潜水艦に搭載予定の弾道ミサイルJL2(巨浪2)は南シナ海から米本土を狙うには射程が足りず、太平洋に進出しなければならないからである。(了)