公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第264回】ワシントン訪問で感じたこと

島田洋一 / 2014.09.16 (火)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 国基研訪米団の一員として、約1週間ワシントンで研究者や議会関係者らと意見交換を行い、9月14日に帰国した。「米政府は尖閣を明確に日本領と認めるべきだ」などの発言で知られ、2016年大統領選挙に向け去就が注目される「レーガン保守」(レーガン元大統領の理念に共鳴する保守派)のホープ、マーコ・ルビオ上院議員(共和、フロリダ州、43歳)に極めて近い筋は、「ルビオは結果を出せない状況に苛立っている。今年11月の中間選挙で共和党が上院の多数を取れず、法案を出しても否決されるばかりの少数野党にとどまるなら、大統領選に打って出るだろう。2016年はルビオの上院改選期と重なり、フロリダ州は大統領選、議会選の同時立候補を認めないため、政界引退を懸けた戦いになる」と述べた。一例だが、今回の訪問を通じて接し得た米国政治のダイナミズムである。

 ●安倍評価と拉致問題
 「リーダーの意志が明確でブレないことが敵対勢力への抑止力になる。その点、オバマ大統領は失格だが安倍晋三首相は合格」というのが多くの米保守派の意見だった。もっとも、安倍政権による集団的自衛権の行使容認や国家安全保障会議(NSC)創設は、重要とはいえ枠組み設定に過ぎず、首相の指導力は行動でこれから本格的に試される、との認識も端々にうかがえた。
 日朝協議を不安視する人も少なからずいた。「安倍は日本のレーガン」という言葉が複数の人から出たが、そのレーガン政権の屋台骨を揺るがせたのが、「武器と人質の交換」と言われたイラン・コントラ事件だ。他国に対イラン制裁の維持強化を求めながら、レバノンのテロ組織ヒズボラが拘束する米人解放のため、イランに対し、ヒズボラへの影響力行使と引き替えに密かに武器輸出を行った件である。その売却益をニカラグアの反共勢力コントラに回した「コントラ」部分は理念的に正当化できても、「イラン」部分は理念的にも実際的にも誤りだったとするのが米保守派においても一般的総括である。北朝鮮の拉致問題で安倍政権が原則的姿勢を貫くことは、拉致問題の解決はもちろん、日米同盟の信頼維持の観点からも極めて重要と言えよう。

 ●最重要史料を「初めて見た」
 慰安婦問題も話題になった。特に顕著な反応が得られたのは、こちらが示した米軍による朝鮮人慰安婦への尋問調書(1944年)である。元慰安婦の証言は多々あるが、年月の経過による記憶の風化や政治的圧力による改変のない当時、いかなる意味でも日本を弁護する動機を持たない第三者(敵国)が行った聞き取りという点で、この調書は最も重要な一次史料である。そこには「性奴隷」とはほど遠い実態が描かれている。
 ところで問題は、非常に日本に理解のある有力者も含め、ほとんどの人がこの史料の存在を知らなかったと述べたことだ。外務省の「広報活動」の質に改めて疑念を抱かざるを得ない。国基研の1週間の滞在の方が、外務当局による数十年の対米説明の総和よりはるかに意味があったとすら思える。(了)