イラク北西部からシリア北東部にまたがる地域を支配する超過激なイスラム主義組織「イスラム国」が米人人質を相次いで殺害したことで、米国内の「内向き」ムードに変化の兆しが見られる。海外での軍事力行使に消極的だったオバマ政権の外交姿勢がイスラム過激派との対決をきっかけに転換するかどうかを注視する必要がある。
●米世論に変化の兆し
米国世論の変化は、8月28日に公表されたピュー・リサーチセンターの調査結果に表れた。国際問題への米国の取り組みが「少なすぎる」との回答が昨年11月の17%から31%に急増し、「多すぎる」との意見が51%から39%へと激減したのだ。
特に共和党系の保守派草の根運動ティーパーティー(茶会)の支持者の間で変化が著しく、「少なすぎる」が54%と過半数に達し(昨年11月は22%)、「多すぎる」の33%(同54%)を逆転した。外交では孤立主義的な傾向のあるティーパーティー運動支持者の変節は、衝撃的でさえある。
共和党政治家も世論の変化を感じ取り、ランド・ポール上院議員ら2016年大統領選挙への出馬をうわさされるティーパーティー系の有力議員が「イスラム国」への強硬策を主張し始めた。
●気になるアジア重視政策の今後
第2次世界大戦後の米国の対外姿勢を振り返るなら、大きな「戦争」が終わると米国は国内問題を重視する内向きの時期に入るが、じきに米国の権益を脅かす挑戦者が現れ、米国は国際問題に再び介入するようになることを繰り返してきた。ベトナム戦争後の内向き姿勢が1979年のソ連軍のアフガニスタン侵攻で終止符が打たれ、ソ連との冷戦終了後は2001年の米同時多発テロが米国をテロとの戦いに駆り立てたように、である。
米国に挑戦状をたたきつけた「イスラム国」の行動は、アルカイダによる対米テロのように米外交を転換させる契機になるだろうか。「イスラム国」には米本土に対する大規模なテロを実行する力はまだないようだが、欧州を中心に西側諸国出身の外国人戦闘員が約3000人いて、米国籍の保有者も「恐らく12人前後」(米国防総省報道官)おり、そうした戦闘員が出身国に戻った時に何をするかを警戒しなければならない。
国際社会は、従来の国家対国家の抗争だけではなく、非国家主体の国際テロ組織とも戦わなければならない新たな時代に入っている。オバマ米大統領は9月5日、「イスラム国」を「弱体化させ、やがて解体する」と宣言して同組織の撲滅を誓ったが、どこまで本格的な軍事行動に踏み切るのかは、まだ分からない。
オバマ政権がテロ組織撲滅に本腰を入れるのは結構なことだが、日本としては、それによってアジア重視のリバランス政策が事実上の棚上げにならないかが気になるところだ。日本が憲法を改正し、あらゆる脅威に対処できる体制を整えることがますます重要になってきた。(了)