公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第309回】西半球の対中認識に変化の兆し

太田文雄 / 2015.06.22 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 6月12日、南米コロンビアで行われた米国防大学同窓生セミナーで、「中国の西半球における影響」についての講演を依頼された。米国防大学の外国人留学生はほとんどが大佐クラスで、卒業生の中には母国の陸海軍司令官になっている人物も多い。卒業生としては私の1年後輩である米南方軍司令官ケリー海兵隊大将の基調講演でセミナーは始まったが、彼は今年3月の米上院軍事委員会で「米国が太平洋にピボット(軸足転回)しているように中国は西半球にピボットしている」と発言している。

 ●ニカラグア運河建設で環境破壊の恐れ
 中国は5月の李克強首相の南米訪問で、ブラジルからペルーに至る南米横断鉄道をはじめとする巨大プロジェクトへの投資を表明した。中米でも、中国資本により昨年末に第二パナマ運河としてニカラグア運河の建設が開始された。
 しかしペルーの軍幹部は、中国資本の進出により銀行や通信インフラまでが中国に乗っ取られつつあることや、中国人社会で環境汚染が進み中国人マフィアによる犯罪が頻発している現状を憂いていた。
 エルサルバドル軍幹部は、ニカラグア運河の建設により、中米諸国に貴重な真水を提供しているニカラグア湖の環境破壊とともに、中国人労働者の増加とそれを防護する集団の存在という安全保障上の否定的影響が生ずることを懸念していた。
 私がアルゼンチン西部のネウケン州で建設中の中国の衛星管制施設の画像を示すと、アルゼンチン軍幹部からは「地元議会が受け入れを承認する前に着工していた」とか「中国との合意文書の中には秘密協定があって、公開されていないのが問題である」という発言があった。
 チリ軍幹部は「中国人は非常に傲慢」として「中国は我が国との漁業協定を簡単に破る」と言っていた。
 アフリカに国連平和維持活動(PKO)で派遣されたウルグアイの軍幹部は「中国資本はアフリカで雇用を生み出すと言いながら、実際には中国人労働者が現地人の仕事を奪い、しかも人民元で現地資源を搾取している」と述べ、こうした新植民地主義が中南米にもまん延することを懸念していた。

 ●中国への警戒心が増大
 米国では今年2月に「中国が米国に代わり世界超大国になろうとする秘密戦略」をサブタイトルとする『100年マラソン』が中国専門家マイケル・ピルズベリー氏によって出版され、3月には有力シンクタンクの外交問題評議会から『米国の対中大戦略の見直し』と題する特別報告書が発表されて、対中認識の劇的転換を求める声が強まってきた。セミナーに参加した米学者も「中国が行うサイバー攻撃、第2次大戦後の世界秩序への挑戦、南・東シナ海での膨張などで対中警戒感が増している」と語っていた。
 西半球における中国の進出と並行して、現地では警戒感が高まりつつあるという印象を受けた。今後の注目点は、こうした潮流の変化が如何にホワイトハウスの政策に反映されていくかであろう。(了)