公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第383回】英のEU離脱から学ぶべきこと

内藤泰朗 / 2016.06.27 (月)


産経新聞外信部編集委員 内藤泰朗

 

 欧州連合(EU)離脱派が6月23日の英国民投票で勝利した。早速、世界同時株安となり、英ポンドが暴落するなど通貨不安が膨らんで、世界に衝撃が走っている。これを機に2008年のリーマン・ショックをしのぐ金融危機の再来を予測する向きもある。グローバリズムの旗頭だった英国が、自ら移民を制限する反グローバリズムやナショナリズムに傾斜したのは皮肉だが、そこから学ぶことはある。
 
 ●急ぎすぎたグローバル化
 EUと英国の〝離婚協議〟は長期に及ぶとみられている。28カ国にまで加盟国が増えたEUから加盟国が脱退するのは初めてで、今後、新たな離脱者を出さないためにも、EUは英国との協議に厳しい姿勢で臨むと予想されるためだ。それでも、主要国の英国とEUは隣接する者同士として、活発な経済活動や人的交流を続けるしか道はない。
 では、英国での離脱派の勝利は、戦後のグローバリゼーションが頓挫する始まりなのか。世界を豊かにしたグローバリゼーションの恩恵を受けない人たちや、移民が多すぎて自国のアイデンティティーを失うとの危機感を抱いた人たちが離脱派の中心にいた。離脱派は、英国だけでなく、欧州各地にいる。今回は、そうした層の考えを決して無視できないという事実を強烈な形で示した。大西洋を隔てた米国でも、11月の大統領選挙を控えて似たような構図があり、反グローバリゼーションの力が強まっている。
 急ぎすぎたグローバリゼーションには今後、ブレーキが掛かる。だが、頓挫するわけではない。英国の国民投票でも示されたように、若い世代を中心に約半数はグローバリゼーションを支持する人たちだからである。いずれ、必ず揺り戻しがやってくる。

 ●見つからない危機解決策
 ただ、英国はEUでドイツに次ぐ経済規模を誇り、戦後の世界秩序形成の一翼を担ってきた政治力や交渉力を持つだけに、その離脱後、EUの弱体化は避けられない。英離脱派の勝利を受けて、フランスやドイツのEU懐疑派たちも増長している。ロシアはチャンスとばかりに弱ったEUを分断し、クリミア併合でEUに科された制裁の解除に向けて揺さぶりをかけてくるだろう。
 EUは、ソ連のように簡単には瓦解しないのかもしれない。だが、今後、シリアなどからの難民の大量流入と人権問題の折り合いをどうつけるのか。ギリシャの債務危機とどう向き合うのか。危機的な状況に陥りつつあるEUに、根本的な解決策はない。
 英国は、スパイ映画「007」でも知られたインテリジェンス(情報活動)能力と、狡猾ともいえる類いまれな政治的バランス感覚にたけている。今回の危機を乗り切るため、中国を含むアジアを重視する外交に力を入れてくるだろう。日本は、そんな英国やEUに寄り添いながら、つながりを強くしていくことが国益につながる。(了)