自民党の事情に詳しいとされる産経新聞の阿比留瑠比論説委員兼政治部編集委員が10月27日付の同紙に「悲願の改憲なぜ論議進まぬ」を書いているのを読んで、「やはり」と合点した。
いわゆる改憲勢力が衆参両院で憲法改正の発議に必要な3分の2を超えたにもかかわらず、安倍晋三首相をはじめ自民党がさっぱり腰を上げようとしない。その理由は、年末にも衆院解散があって年明けには新しい衆院の構成も決まるだろう、あるいは自民党総裁任期が3期9年に改正されればあと5年の時間がある―とのんびりしているのではないか、と阿比留氏は述べている。
●国際問題に鈍感な日本人
半世紀以上にわたって改憲の書生論を唱えてきた私としては、違和感を抱かないわけにいかない。3カ月強前の参院選の時に来日していた某ホワイトハウス元高官が「東シナ海などの日本をめぐる国際環境が一度も争点にならなかったのを不思議だと思う」との感想を漏らしていたのを思い出す。身の回りの問題には超敏感体質なのと対照的に、国際問題に鈍感なのは自民党だけではなく日本人の特徴なのだ。
いま東シナ海で発生している事態は、海上保安庁の予算を増やすかどうかの低次元の課題ではなく、憲法9条の枠内で尖閣諸島の防衛ができるかどうかの瀬戸際に立ち至っているとの認識が永田町には存在しないようだ。中国の圧力は予見し得る将来にわたり続く。
ロシアとの北方領土交渉は、日本が先方の気に入るような餌を懸命に差し出して歓心を買おうとしているように見受けられる。一部報道では、対中戦略上、「北の熊」の脅威をなくす狙いがあるという。戦略的発想は大いに結構だが、それには国際情勢を正確に認識し、ロシア外交が続けてきた悪辣な手口を知っておかなければならない。個人の交際と国家関係は全く異なるとの理解は政治家、官僚に徹底しているか。
●政治家に欠かせぬ緊張感
来年1月以降の米国は、仮にヒラリー・クリントン氏が大統領になっても、世界を指導する国家に早変わりするとは考えにくい。これといった軍事行動を起こさなかったところに特徴のある「オバマ・ドクトリン」を国務長官として推進したのはクリントン氏だった。日本は新しい米国にどう対応するか。
国際環境は日本の戦後の憲法体制を激しく揺さぶっている。にもかかわらず、戦後からの脱皮を唱えた政治家に緊張感や志がなくなってきたらどうするか。私にとって最も重要なのは、自民党ではなく日本だ。(了)