衆院法務委員会は5月2日、テロ等準備罪を新設する法案の審議を始めたが、民進党が審議拒否に入った。同党の山尾志桜里前政調会長は、自民党の手法は「出来損ないの『共謀罪』を一刻も早く通したいという強権的なやり方」だと非難した。
民進党の主張は私には不条理に思える。共謀罪を巡る同党の、11年前の議論と今日のそれを比べれば、彼らの反対は理解を超える理不尽なものであり、反対のための反対だと言える。
●11年前の修正案は受け入れられた
11年前、自民、公明両党は、国会に「共謀罪」の設置を提案した。私は当時、共謀罪は必要だが、幾つか修正すべき点があるという意見を衆院法務委員会で参考人として述べた。私の懸念は、共謀罪に個人の心の問題にまで踏み込んでくる余地はないのか、過剰な拡大適用の懸念はないのかという点だった。言論の自由、思想信条の自由が阻害されることのないように、外形的要件を定めるべきだという主張を、私は言論人として展開した。
その時点で私の主張は民主党(現民進党)のそれに近かった。民主党は、①対象となる犯罪を政府案の619から306に絞り込むこと②取り締まる対象を単なる「団体」から「組織的犯罪集団」に改めること③犯罪実行のための「予備行為」を処罰の要件とすること―を柱とする修正案を提出した。私はこの修正案を高く評価し、自民党に民主党案を丸ごと受け入れるよう求めた。
今回のテロ等準備罪は11年前の民主党修正案をほぼそのまま受け入れている。11年前の留保条件がすべて満たされたことから、私は今回、テロ等準備罪を新設する法案の1日も早い成立を主張している。
●世論を煽る無責任政党
他方、民進党はいまも、戦前の治安維持法を引き合いに出し、「普通の人々が監視され、次々と引っ張られた。同じことを繰り返してはならない」などという極論を唱え、世論を煽る。的外れで無責任な主張ではないか。
民進党はまた、現行法でも十分な取り締まりが可能で、テロ等準備罪は不要だと主張する。そんなことはない。たとえば、テロリストが水源に毒を投じて多くの人を殺害し社会不安を掻き立てようと企てたと仮定する。現行法ではテロリストが水源近くに毒を運んでも手が出せない。彼らが実際に毒を水中に投じたとき、初めて逮捕できる。現行法のこのような欠陥を埋めるのがテロ等準備罪だ。
民進党はもっと自党の主張を一貫させ、責任政党として行動すべきだ。東京五輪を3年後に控えて、国民と国益を守るために法整備を早急に進めるべきである。(了)