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西岡力

【第521回・特別版】拉致問題、情報プロによる裏交渉を

西岡力 / 2018.06.15 (金)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 米朝首脳会談により、北朝鮮による拉致被害者の救出問題は大きな進展を得た。トランプ米大統領は北朝鮮の金正恩労働党委員長に拉致問題を提起したと会見で話した。安倍晋三首相は「この問題についての私の考えは、トランプ大統領から金正恩委員長に明確に伝えてもらった」と語っている。日本政府関係者は「トランプ氏は正恩氏に、日本に経済協力をしてもらいたいなら、拉致問題にしっかり取り組むように言った」と記者に語っている(東京新聞6月13日)。

 ●米朝会談で大きな進展
 トランプ大統領は金正恩氏に核ミサイルの完全廃棄を迫り、それをしないと斬首作戦(軍事攻撃)を実行すると脅すというムチの役割を担った。しかし、金正恩氏が核ミサイルを廃棄した場合に与えるアメ(見返り)について、米国は金を出さないと繰り返し語っている。金正恩氏に、カネは安倍が出すから安倍と会え、ただし安倍は拉致問題が解決しないとカネを出さないと言っている、と伝えたのだ。
 米朝首脳のディール(取引)に拉致問題が組み込まれた。日本から見ると、これは大きな外交成果だ。米国の軍事圧力を拉致解決の後ろ盾に使うことができる構造を作り上げたことになるからだ。つまり、日本は蚊帳の外などではなく、米朝のディールの一角に拉致問題解決と経済協力を組み込ませることに成功してプレーヤーになっているのだ。
 安倍首相はそのことを踏まえて「拉致問題は、トランプ大統領の強力な支援をいただきながら、日本が北朝鮮と直接向き合い、解決していかなければいけない」と語っているのだ。14日、官邸で首相と面会してその決意を聞いた拉致被害者家族会メンバーは口々に、焦って日朝首脳会談を持とうとしないでほしい、確実に全被害者が帰ってくると判断できてから金正恩氏に会ってほしい、と語った。家族会は制裁一辺倒で対話をしない安倍総理に不満を抱いているというトーンの報道をしてきたメディアもあるが、誤報だと断定できる。

 ●首脳会談を焦るな
 安倍首相の考えをトランプ大統領に聞いた金正恩氏は「解決済み」という紋切り型の回答をしなかったという。私は5月に北朝鮮内部につながる筋から、「金正恩政権は、米朝会談がうまくいけば次に日朝首脳会談を考えている。そこで多額の資金を得ようと考えている」と聞いた。
 安倍首相は焦って日朝首脳会談を求めてはならない。被害者に関する極秘情報を扱う情報部署のプロを密使として裏交渉を持つべきだ。全被害者の即時一括帰国が実現できると判断したとき、交渉を表に出して外務省に引き渡すのだ。米国でも中央情報局(CIA)が水面下で交渉した後、国務省に交渉権限を移した。安倍首相もその手法を見習ってほしい。金正恩氏が全被害者の即時一括帰国を決断したことを確認した段階で、その見返りを話し合うために、安倍首相が金正恩氏と最終談判をするしかない。(了)