公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

  • HOME
  • 今週の直言
  • 【第527回】貿易戦争の根源は中国の不公正慣行にあり
大岩雄次郎

【第527回】貿易戦争の根源は中国の不公正慣行にあり

大岩雄次郎 / 2018.07.09 (月)


国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎

 

 トランプ米政権は、中国の知的財産権侵害を理由とする制裁関税を予定通り7月6日に発動した。中国も同日、報復関税を発動し、世界一、二位の経済大国が大規模な高関税をかけ合う異常事態に突入した。
 日本も含めて多くの国は、自由貿易を錦の御旗に、トランプ政権に対する批判を一様に強めている。トランプ大統領のやり方は極めて拙劣で、効果も疑問である。しかし、トランプ政権に報復するだけで自由貿易を守ることができるかも極めて疑問である。問題の本質はどこにあるかを見失ってはならない。

 ●公正な自由競争を守るコスト
 トランプ大統領が指摘するように、今回の事態は、米国の歴代政権の対中政策の誤りに起因する。40年以上に及ぶ「関与政策」と、その一環としての世界貿易機関(WTO)加盟支持は期待した成果を上げられなかった。中国は自由貿易の拡大に貢献するどころか、WTO加盟後も市場を歪める国家主導の保護主義的な慣行を維持し、今なお重商主義的戦略を改める兆しは見えない。
 ただ、こうした事態を招いたのは米国だけの責任ではない。欧州連合(EU)や日本も目先の経済的利益を優先し、中国の不公正な貿易慣行に事実上目をつぶってきた。その意味で、各国とも、米国の対中制裁が中国の不公正を正す意図を持つことを理解し、支持すべきであり、その経済的影響も含めて、責任を負うべきである。これは、公正な自由競争市場を守るために各国が負うべきコストである。
 ただ、トランプ政権のやり方は余りにも乱暴である。不公正を正されるべき中国と、合意されたルールの下で活動している同盟国を一緒くたにして一方的に追加関税を課すのは理不尽である。日本は不当な関税については躊躇なくWTOに提訴すべきである。

 ●拙速なRCEP合意は中国を利する
 トランプ政権の保護主義に対する「防波堤」を理由に、7月1日に都内で開催された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)閣僚会合は、年内合意を目指すことで一致した。合意機運を高めた要因の一つには、日本の姿勢の変化があったと報じられた。
 世耕弘成経産相は3月のシンガポールでの閣僚会合でRCEP推進方針に転換し、今回は、閣僚会合共同議長の立場で「年末の妥結に向けて頑張っていきたい」と、決意を示した。
 これまで日本は「高い自由化水準でなければ成長に資さない」という立場を取り、低い自由化水準で早期合意を主張する中国や東南アジア諸国連合(ASEAN)を牽制してきた。日本が立場を翻し、低い自由化で妥協すれば、公正な自由競争市場の拡大を阻害し、国家主導の中国を利し、今回の米国の対中制裁効果も弱める。
 さらに、自由化水準の低いRCEPに合意すれば、今後トランプ政権が要求する日米自由貿易協定(FTA)交渉で、自由化水準の高い環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を武器として使えなくなる。いま日本の為すべきことは、RCEPの早期妥結ではなく、TPPの拡大と、紛争処理機能の抜本的改革によるWTOの立て直しである。(了)