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今週の直言

西岡力

【第30回】金正日の病状悪化、高まる北住民の不満

西岡力 / 2010.03.23 (火)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

糖尿病による腎不全
北朝鮮の独裁者、金正日の病状はかなり悪い。糖尿病からくる腎不全のため透析を受けているという情報はほぼ間違いない。2月3日、ソウルでキャンベル米国務次官補は「生物学的時間がない」と話した。糖尿病からくる腎不全は最高度の医療環境でも5年以内に半分以上が死亡するという。三男ジョンウンを後継者とする作業を急いでいる背景がまさに金正日の健康不安だ。

貨幣改革は失敗、住民の反発強まる
昨年11月末に実施された貨幣改革が失敗し、北朝鮮社会は急速に不安定化している。注目されるのは人民保安員(警察官)などへの暴行やテロ事件が続発していることだ。

昨年12月、咸鏡北道清津で保安員が住民に暴行され大けがをする事件があった。四柱占い師の家の前で順番を待つ住民たちを取り締まろうとした保安員が集団暴行に遭った。

2月初め、咸鏡北道ユソン炭坑で党書記の自宅と保安所(交番)にダイナマイトが仕掛けられた。

3月13日現地から伝えられた情報によると、咸鏡北道会寧市と茂山市で人民保安員と国家保衛部員(政治警察)が軍服を着て市場に入ることが禁止された。貨幣改革以降、厳しく取り締まってきた市場活動を再び解禁するという意味があると同時に、不満を高める商人らに暴行されることを恐れているという。

貨幣改革失敗の責任を負わされて朴南基労働党部長が銃殺されたという噂が3月中旬以降、北朝鮮国内で広がっている。1990年代後半、人口の15%が餓死させられたとき、農業担当の徐寛熙労働党書記が米国のスパイ容疑で銃殺された。朴部長の銃殺が事実なら、金正日の住民の不満への危機意識が大量餓死時と同じくらい高まっていることになる。

急変事態に備える米中、中国評価で分裂する韓国
米国と中国は金正日の病状、北朝鮮住民の動向を正確に把握し、ポスト金正日に向けて準備している。北朝鮮混乱時に米韓軍が北進する作戦計画「5029」は既に完成している。4月16日から中国の北京と長春で、米中韓の政府系研究機関などによる「北朝鮮急変事態対応」に関する対話が持たれ、「(北朝鮮の)核兵器の安全性確保のため中国軍が国連平和維持軍として介入する」という計画が検討されるという(韓国SBSテレビ3月18日)。

韓国では、金正日政権崩壊後、労働党一党独裁体制を維持しつつ中国式改革開放を行わせ、その後に統一するという2段階統一論が一定の支持を得てきた。それに対して、一度、中国共産党の影響下に入れば自由統一は不可能になり、むしろ韓国さえも中国共産党の政治的影響下に入る恐れありとして、即時自由統一を主張するグループも少しづつ増えてきた。

いまこそ、「経済を資本主義化しつつ独裁統治、異常な軍拡、人権弾圧を続ける中国共産党政権をどう評価するのか」という根本論点を踏まえた日韓米の戦略対話が求められている。(了)

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第30回:金正日の病状悪化、高まる北住民の不満(西岡力)