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大岩雄次郎

【第29回】温暖化法の拙速な制定は「京都」の二の舞いだ

大岩雄次郎 / 2010.03.15 (月)


国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎

政府は、1月末、2020年までに温室効果ガスを1990年比25%削減する中期目標を国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局に提出し、3月12日には、温暖化対策の基本方針を盛り込んだ地球温暖化対策基本法案を閣議決定した。中国も米国も、不調に終わった昨年の第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)に提出したものと同じ目標を事務局に提出した。つまり、CO225%削減という大胆な目標を掲げた鳩山政権は、削減問題でリーダーシップを全く取れなかった。

にもかかわらず、「ポスト京都(議定書)」の枠組みが全く不明なままに、基本法案を閣議決定し、今国会での成立を急ぐ意味はどこにあるのか。

COP15の結果の意味を肝に銘ぜよ
COP15では、長期目標(2050年)の数値すら合意に至らなかった。それなしに、先進国と途上国間の削減比率や先進国間での削減比率を決めることはできない。さらには、各国の中期目標が、鳩山政権が前提とする「すべての主要国による公平かつ実効性のある枠組みの構築と意欲的な目標」であるかどうかを判断する術もない。

この状況で、CO225%削減という突出した数値目標を掲げる意味はどこにあるのか。日本だけが不利な削減を強いられた京都議定書のてつを踏もうとしているとしか思えない。

COP15の結果は、各国の国益をかけたパワーゲームの結果そのものである。鳩山政権に最も欠けているのは、その種の戦略的視点である。高い数値目標を掲げるだけでは、何のリーダーシップも発揮し得ないことを肝に銘ずるべきである。

エネルギー安全保障および経済と両立する環境政策を示せ
鳩山政権の環境政策の決定的な欠陥は、エネルギー安全保障および経済との両立の視点を欠いていることである。わが国のエネルギー自給率はわずか4%(原子力を含めても20%)である。原子力発電の拡充なしに、安定的なエネルギー確保は見込めない。

米国では、原子力発電所建設に政府保証を付け、環境とエネルギー安全保障を両立させる政策を始めている。経済への悪影響については、全くと言ってよいほど配慮されていない。CO225%削減という過大な負担は、産業の空洞化を促し、雇用を破壊しかねない。クライメートゲート(地球温暖化データ操作疑惑)などを契機に、地球温暖化のCO2主因説を広めた「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)も第三者委員会の評価を受けることになった。鳩山政権はIPCCと同様に、情報開示に消極的だと批判されている。速やかに、開かれた議論の場を設定すべきである。(了)

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第29回:温暖化法の拙速な制定は「京都」の二の舞いだ(大岩雄次郎)