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西岡力

【第626回・特別版】全体主義権力に対する韓国文明の反撃

西岡力 / 2019.10.07 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 10月3日、開天節(韓国の建国記念日)を迎えたソウルで、文在寅大統領の下野と曺国法相の逮捕を要求する50万人のデモがあった。韓国史上、最大規模だった。韓国国旗の太極旗と米国国旗の星条旗を持つ人々が、光化門からソウル市庁前、南大門を経てソウル駅までの道路を埋め尽くした。
 主催者の一つである第1野党の自由韓国党は参加者を300万と発表したが、これは誇張であり、政治的数字だった。50万という数字は月刊朝鮮が面積を基に計算した実証的数字だ。

 ●韓国で史上最大の反政権デモ
 これに先立つ9月28日、文政権支持勢力が組織的動員をかけて、検察庁前で曺法相のさまざまな疑惑に対する捜査に抗議するデモを行った。法治主義への挑戦だ。与党の「共に民主党」は200万人が集まったと発表し、マスコミもそれを検証なしに報じたが、面積を基に計算すると5万人以下だった。自由韓国党の300万という数字は与党が200万集めたと言っているので、それよりも格段に多かったというアピールだ。
 それまでの最大記録は、2016年12月の朴槿恵大統領(当時)退陣要求ろうそくデモと17年3月の朴大統領弾劾反対太極旗デモの各30万人だった(両方とも警察が面積を基に計算した数字)。
 主催者が生中継したユーチューブの映像を見ると、日本から駆けつけた日本人が通訳つきで「皆さんの敵は日本ではありません。共産主義全体勢力です」と演説する一幕もあった。キリスト教教会が大挙参加し、賛美歌を歌い、祈りを献げつつデモをする姿があちこちで見られた。老若男女が参加した国民的デモだった。
 主催者側が非暴力と秩序維持を強調し、武器と誤解される物を持ち込まないよう参加者に要請したので、鉄パイプや火焔瓶は登場しなかった。50万人のデモが事故一つなく、ゴミ掃除までして解散したことは奇跡的であり、韓国の文明の力を象徴していた。

 ●青瓦台前の座り込み続く
 デモ隊は屋外集会を終えて青瓦台(大統領府)前へ向けた大行進を行い、一部は青瓦台前の路上に座り込んだ。文政権を倒すまで闘うと宣言し、7日現在、座り込みを続けている。
検察は3日と5日に曺氏の夫人を召喚して取り調べを行った。検察が現在のように大統領と法相の不当な干渉を跳ね返し、法と証拠に基づいて捜査するなら、曺氏本人の取り調べと起訴が近日中にあるだろう。50万のデモは検察への力強い後押しとなった。
 しかし、文大統領は司法の判断を待つと公言し、曺氏が起訴されても辞任させないと開き直った。5日には検察庁前の路上で、曺氏を守れという左派のデモと、曺氏逮捕を求める保守派のデモがにらみ合った。政権を守るために曺氏を切るという選択もあるはずだが、文政権は韓国を北朝鮮と中国にささげる「全体主義革命」「社会主義革命」の仕上げを優先しているから、曺氏を守るのだ。曺氏を使って検察を完全に掌握し、北朝鮮との連邦制統一を可能にする憲法改正を成し遂げるという権力の意志がそこにある。それを絶対許さないという文明の側の力強い反撃が始まった。(了)