公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第632回】日韓関係改善の道

西岡力 / 2019.11.11 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 韓国の政府・与党が日韓関係改善を求めるメッセージを出し続けている。首相と国会議長が訪日して多数の関係者と会談したのに続き、文在寅大統領もバンコクで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議の開始前の控室で安倍晋三首相に近づき、約10分間の対話を持った。この夏に「竹槍で日本に立ち向かえ」「秀吉軍と戦った李舜臣将軍を想起せよ」などと反日をあおっていたのが嘘のようだ。
 しかし、本当に関係改善を望むなら、非公開での真剣な交渉から始めるべきだ。戦時労働者問題、戦略物資の輸出管理厳格化の問題、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄決定の撤回など、一連の懸案について日本側に歩み寄る具体的な提案を示すことだ。それ抜きのパフォーマンスは、韓国側は日韓関係の改善に努力しているが、安倍政権が頑なでうまくいかないという構図をつくり出すことが目的なのだ。

 ●韓国で高まるアンチ反日の声
 安倍政権は昨年10月の戦時労働者問題をめぐる韓国最高裁の不当判決について、国家間の条約・協定を司法が覆す国際法違反と位置づけ、韓国政府の責任で是正することを要求し続けている。文政権が日本企業の負担を前提にしたさまざまな提案をしても、基本的立場を崩さず、韓国内だけでの解決を求めている。この姿勢は正しい。
 なぜなら韓国内に今、反日に反対する声がかつてないほど高まっているからだ。
 学界では李栄薫前ソウル大教授らのグループが7月に出版した反日批判の書『反日種族主義』が13万部を超えるベストセラーになった。言論界でも、全国紙の文化日報が戦時労働者への補償は韓国内で解決せよという論陣を張り続けている。これまで韓国の反日をリードしてきた有力紙、朝鮮日報も、日韓請求権協定を遵守して日本に補償を求めるべきでないという識者の意見を載せた。
 政界でも、9月末に国会施設で日韓保守派による討論会が開かれ、私と李宇衍博士が戦時労働について強制連行や奴隷労働はなかったと力説したのだが、いずれも野党のウリ共和党2人、自由韓国党1人の現役議員が会場に来て挨拶をした。11月11日には、国会外交統一委員長である尹相現議員(自由韓国党)が「文大統領は日本に戦時労働者への賠償を求めないと宣言せよ」というコラムを中央日報に寄稿した。

 ●足して2で割る妥協を排す
 日韓関係を改善する道はただ一つ、反日に反対する韓国保守派と連帯することだ。日韓議員連盟の一部幹部や朝日新聞などが言う日韓の主張を足して2で割るような譲歩の道ではない。過去にもアンチ反日を主張した韓国人は存在した。例えば、慰安婦強制連行の証拠は見つからないという日本側の調査を信じるべきだと韓国内で発言した呉在熙駐日韓国大使(在任1991~93年)は、元慰安婦のおばあさんらに土下座を強いられ、解任された。ところが日本政府が足して2で割る妥協をして1993年の河野洋平官房長官談話で強制連行を認めてしまった。そのような失敗を決して繰り返してはならない。(了)