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矢板明夫

【第631回】党の重要文献から「一帯一路」が消えた意味

矢板明夫 / 2019.11.05 (火)


産経新聞外信部次長 矢板明夫

 

 中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第4回総会(4中総会)が10月31日に閉幕した。内政外交などについて今後の課題や施政方針などを盛り込んだ約6000字のコミュニケが発表された。
 「国家統治体系の能力の現代化を目指す」などの意味不明な言葉が羅列されたほか、「香港で一国二制度を堅持」や「台湾独立に反対」といった中国政府の持論も展開された。しかし、習近平政権の看板政策である巨大経済圏構想「一帯一路」がコミュニケの中で全く触れられていなかったことに驚いた。

 ●あり得る計画縮小
 十数年前、筆者が特派員として北京に赴任した直後、先輩記者から「中央委総会のコミュニケから消えた言葉を捜せ」と言われたことを思い出した。「コミュニケは党内の各勢力の主張を寄せ集めて書いているから、前後矛盾したり、つじつまが合わなかったりすることはよくある。しかし、もし今まで繰り返して強調されていた言葉が突然消えたなら、重要な政策変更を意味する。政局の前兆かもしれない」というのが理由だ。
 一帯一路構想は習政権発足した2013年に提唱され、その後、習外交の最も重要な柱として宣伝され続けた。2017年の党大会で可決した党の規約には「一帯一路の建設を推進する」と明記された。しかし、一帯一路についての国際社会の評判は決して良くない。「発展途上国に債務を押しつけている」「軍事目的への転用の恐れがある」など欧米諸国から多くの批判が寄せられた。国内でも「お金をばらまくだけで、経済効果がない」といった声が聞かれた。
 今回のコミュニケの中から一帯一路が消えたことについて、北京の共産党関係者は「多くの関連プロジェクトが世界中で展開されているいま、直ちに一帯一路をやめることはないが、政権にとっての優先順位が低くなったことは確実で、これからは縮小していくだろう」と話した。

 ●習氏の求心力低下
 昨年から本格化した米中貿易摩擦に伴い、国内の景気低迷が長引いた。習政権が有効な対策を打ち出せなかったことで、党内で執行部への不満が高まっているといわれる。こうした圧力を受け、習指導部はやむなく、国内外で悪評の高く、コストのかかる一帯一路の推進を実質的に放棄した可能性がある。
 しかし、政権がこのような形で最も重要政策をやめれば、その求心力の低下は避けられない。4中総会の前に、複数の香港紙が習氏の後継者と目された若手指導者の最高指導部への昇格人事の可能性を報じた。党内でポスト習近平の動きが活発化している証拠だ。2022年の党大会に向けて、習派と反習派の攻防はますます過激化しそうだ。(了)