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細川昌彦

【第656回】新型肺炎から垣間見えた半導体ビジネスの危うさ

細川昌彦 / 2020.02.10 (月)


国基研企画委員・中部大学特任教授 細川昌彦

 

 中国の新型肺炎の感染が拡大して、経済への深刻な影響が懸念されている。とりわけ発生源である武漢市は自動車産業の一大集積地で、自動車業界のサプライチェーン(部品供給網)への大きな影響にメディアの関心も注がれている。
 しかし、忘れてはならないのが半導体産業だ。半導体産業は軍民融合を掲げる中国の産業政策「中国製造2025」の最重点産業で、2025年までに自給率7割を目標としている。武漢はその中核拠点で、台湾から大量の技術者を引き抜くなど、海外技術を基に巨大工場の建設を進めている。

 ●米中技術覇権争いの主戦場
 先日、武漢からチャーター便で日本人数百人が帰国した。そのうち約半数は自動車関連であったが、残りの大半は半導体関連だった。日本の半導体製造装置メーカーの技術者がそうした工場の建設に関わっているのだ。もちろんそのこと自体は中国市場でのビジネスとして当然であって、現時点では問題になるものではない。
 ただ、注意を要するのは半導体産業が米中技術覇権争いの主戦場だということだ。先月、米中貿易交渉の第一段階の合意が署名されたが、こうしたトランプ大統領による関税合戦での取引は表面的なものだ。深層部分で技術を巡る覇権争いはますます激しくなり、米議会を中心に対中輸出管理を抜本的に強化する準備が進んでいる。安全保障上の機微な技術分野は中国を「部分的に分離」する方針だ。
 その重要なターゲットの一つが安全保障の「基盤技術」とされる半導体だ。背景には、中国が猛然と半導体産業を育成しようとしていることがある。2014年からの第1期には2兆円の基金で半導体チップに投資し、2019年10月に発表した第2期計画では3.2兆円の基金で半導体製造装置に投資する。

 ●日本企業が認識すべきリスク
 米国が半導体製造に関する技術流出に警戒するのも当然だ。そして、その製造装置は日欧企業が主たるプレーヤーであることから、その協力が不可欠としている。最近、最先端の半導体生産に必要な露光装置を独占的に供給しているオランダの装置メーカーが中国企業への供給をストップしたのも、米国の要請があったからだ。
 米国は技術流出を阻止すべく輸出管理を強化しようとしているが、米国企業に対しても徹底した「技術管理」を求めている。
 日本企業もこうした安全保障の動きへのアンテナを高くして、仮に米国から「抜け穴」になっていると見られれば、パートナーから外されるリスクもあることを認識すべきだろう。(了)