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奈良林直

【第657回】新型コロナウイルスの感染予防策を提言する

奈良林直 / 2020.02.17 (月)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林 直

 

 現在、世界一厳しいとされる新規制基準に合格した原子力発電所では、万が一の事故の際に放射性物質をし取るフィルターベントという装置と、住民の被ばくを防ぐためフィルターで浄化した空気を送り込むエアシェルターという設備が設置されている。実質的に地元の有意な汚染は発生しないところまで安全対策が講じられた。同様に、新型コロナウイルスによる肺炎やインフルエンザなど、国民の健康や生命を脅かす感染症についても、原発の安全対策を推進する工学者の立場から、効果的な予防対策を提言したい。

 ●注目すべき次亜塩素酸水
 新型コロナウイルスの感染予防には、鉄道や地下鉄、バスといった高効率・大量輸送システムにおける対策が必要である。コロナウイルスはエンベロープと呼ばれる膜で覆われ、ゴルフのティーのような形をした多数のスパイクを有し、喉や目の粘膜の細胞に付着して穴をあけ、ウイルス中のRNA(リボ核酸)と呼ばれる遺伝子の塊を細胞内に注入する。細胞内のエネルギーとタンパク質を合成する能力を乗っ取って増殖し、細胞を変性させて肺炎を発症させる。
 コロナウイルスやインフルエンザのウイルスは、感染者のせきなどによる飛沫感染が主である。患者の咳1回で2万個、くしゃみ1回で10万個の飛沫が発生する。満員電車やエレベーター、クルーズ船、病院の待合室など、人と人が濃厚接触する場所で感染リスクが高い。飛沫が乾いてウイルスだけになると、ウイルスのスパイクは破壊され不活性化する。
 厚生労働省のホームページには、手など皮膚の消毒には消毒用アルコール(濃度70%)が、ドアノブなど物の表面の消毒には次亜塩素酸ナトリウム(同0.1%)が有効であると記載されているが、食塩水を電解してできる次亜塩素酸水の有効性を指摘する文献もある。白血球(好中球)が細胞内で発生する次亜塩素酸が細菌を殺す成分といわれているからだ。1~2分でウイルスを不活性化(破壊)できるとするデータもある。

 ●空調機を活用
 この次亜塩素酸水の弱酸性希釈液を空調機器にスプレー噴霧したり、加湿器のタンクに混ぜたりして、乗り物やオフィスビルで循環させれば、飛沫感染などを効果的に防止できると考えられる。今回、新型コロナウイルスの感染者が多数出たクルーズ船の空調機器に噴霧すれば、船内感染は防げたのではないか。次亜塩素酸水やスプレーボトルはネットで入手可能だ。ペットボトル程度の大きさの超音波加湿器も市販されているので、タクシーや観光バスで使用すれば感染予防になる。コロナウイルスだけでなく、インフルエンザの予防にも有効であろう。このような空調機器や小型加湿器の活用には経済産業省や国土交通省の積極的な支援が欠かせない。我が国政府が感染症から国民を守る迅速な行動が必要である。
 「気温が上がると感染が収まる」との説もあるが、気温28度のシンガポールでも16日までに感染者が70人を超えており、楽観できない。(了)